関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

井上泰平調教助手

単勝1.6倍という支持を受け、華々しい壮行会となる予定だった京都記念は生涯初となる掲示板を外す(6着)結果に……。精神面のダメージが心配されるところだが、幸いこのインタビューで井上泰平調教助手がその不安を一掃してくれた。今度の舞台は昨年2着のリベンジを期すためのドバイ・シーマクラシック。大舞台に強いジェンティルドンナの劇的な復活勝利を期待せずにはいられない。

初めて惨敗した後の状態は!?

-:今年もドバイへ遠征するジェンティルドンナ(牝5、栗東・石坂厩舎)について伺います。まずは前走の京都記念を振り返っていただきたいのですが、一番気になったのは、ゲートで潜ろうとしていた点です。スタート前から見ていて声が出てしまいました。

井上泰平調教助手:今まで、あのようなことは一度もなかったんですけどね。原因については分からないですが、それほど心配はしていません。ドバイに到着したら、向こうでゲート練習もするので大丈夫だと思います。

-:期待されていたレースでしたが、牡馬相手とはいえ、もうちょっとやれたんじゃないかなという印象は残りました。

井:レース後、色々と振り返って何がダメだったのかも考えたんですけど、正直こちらもびっくりしましたからね。4コーナーで手応えがなかったようなので、調整過程に何か問題があったのか……。競馬なので、常に結果が出るわけではないので、切り替えて頑張ります。

-:ジェンティルドンナとしては、大負けに近いですね。

井:大負けですね。初めて掲示板を外す結果でしたから。ただ、その後も順調ですし、一回使ってシャキっとしてきています。



昨年2着の経験を生かして

-:昨年のドバイでは、道中引っかかり気味にレースを進めてしまい、セントニコラスアビーを捕らえることができませんでしたが、今年は違う作戦などはありますか?

井:今年はジョッキーも違いますし、向こうの競馬にも慣れているでしょうからね。そんなに緊張もないだろうし、その辺はプラスになってほしいですね。

-:日本から用意していくエサなど、物資的な面でアレンジしていることはありますか?

井:これと言って特にないですね。厩舎のエサを持って行けないかもしれない、という話はありましたが、大丈夫みたいなので。

-:乾草だけは向こうの物を使われるんですか?

井:昨年も向こうの物を食べていました。ドバイに置いてあるというだけで、輸出元は日本に来ている物と同じなので、変わらないと思います。

-:そういう面での心配はないのですね。

井:そうですね。環境面で言えば、今日も検疫厩舎に入れましたけど、昨年は違う環境でソワソワして、あまり飼い葉も食べませんでしたが、今日はいきなりバクバク食べていました。やっぱり、年をとって大人になってきているのかなと思います。

-:昨年はカーマイン(牡6)が検疫厩舎まで帯同していましたが、今回はどうされていますか?

井:今回はランドルト(牡5)が付いていて、出国前まで一緒にいます。

-:ということは、昨年から大幅な変化は無さそうですね。

井:昨年のことを思い出しているかもしれませんね(笑)。「もしかして、また行くのか?」と。


「ドバイの芝は函館よりも密で、ヨーロッパの馬場に近いような気がしましたね」


-:前回の遠征で、馬場状態に関してはどうでしたか?海外なので、調教段階とレース当日で、おそらく変化もあったと思います。

井:ああいう(暑い)国で、芝生を保護しようとすると、大量の水を撒くんです。普段の攻め馬の時も、結構しっとりとした、重くて軟らかい馬場で、芝も凄く密集していて丈も長いです。トレセンの芝で乗ると硬いと思うのですが、そういうものではないですね。

-:函館のような感じでしょうか。

井:それよりも密で、ヨーロッパの馬場に近いような気がしましたね。

-:日本の馬にとっては結構タフなコンディションでしょうね。

井:タフだと思います。タイムも遅いですからね。

-:オールウェザーのトラックのように、調教時とレース時で馬場の変化はそれほどなさそうですね。

井:それほど感じませんでしたね。

昨年のドバイ遠征時の調教の様子


-:時計のかかる馬場は、ジェンティルでも問題なく走れそうですか?

井:走れると思います。昨年はレコード決着の2着でしたし、向こうの競馬ではGPSが付いているんですが、勝った馬より9メートルくらい余計に走っていたみたいです。たった9メートルですけど、その分タメも利かないし、ずっと外を回らされて、おっ放してる状態でしたので、それほど悲観はしていないです。

-:では、今回はなるべくコースロスなく走ることが課題でしょうか。

井:どの競馬でもそうですけど、あまり外々を回るのは良くないかなと思います。

-:ただ、内を回り過ぎると海外の競馬では絶対に開けてくれないタフな面もあります。ジェンティルは昨年2着で、ジャパンカップ連覇の実績も知っているでしょうから、昨年よりも厳しい戦いが予想されますね。

井:昨年も1番人気で、新聞にも載っていたので、マークはされていましたね。内に入れてもらえませんでしたから。そういう面もありますね。

-:世界のホースマンに、ジェンティルドンナという馬自身が評価されていることに他ならないことですから、誇らしいことでもありますね。

井:だいぶ評価を落としたみたいですけどね(苦笑)。

-:ドバイから帰国後の成績が、ファンの思い描いている”最強牝馬”のイメージとは少し違ったのかもしれませんね。ジャパンカップ前にムーア騎手に話を聞いた時に「彼女のコンディションが戻っていれば……」という話がありましたが、初めて乗った騎手がそういうコメントをしていたので、どういう意味だろうかと考えていたのですが、ジャパンカップの勝ち方を見ると、ムーア騎手自身も“もう少し力があるだろう”と思っていたからこその発言だったのかなと。

井:そうかもしれませんね。

-:3歳時のような“向かうところ敵無し”というパフォーマンスを見せてほしいです。

井:今回は追い切りの感触も良かったので、戻っているんじゃないかと思うんです。

ジェンティルドンナの井上泰平調教助手インタビュー(後半)
「今回はデニムアンドルビーと同斤量」はコチラ⇒

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【井上 泰平】 Taihei Inoue

大阪府豊中市出身。9歳から乗馬を始め、高校時代に国体を優勝。必然の流れにより大学では馬術部に入る。卒業後は美浦分場に2年間勤務。アイルランドの研修などを挟んだ後に競馬学校へと進学し、中村均厩舎からトレセン生活をスタート。その後は開業直後の角居勝彦厩舎で調教主任を務め、大久保龍志厩舎では持ち乗りから攻め専に転身。後の名門厩舎の基盤を築く。
30年以上にわたる馬乗り人生の中で、現在モットーにしていることは「馬との信頼関係を築くこと。分かりあえたかなと思っても、また違うのかなとそれの繰り返し」と。石坂正厩舎の屋台骨を支えるベテラン調教助手。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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