前年の秋を迎えるまでは8戦1勝で一介の条件馬だったタマモクロスだが、芝替わりの400万下から始まった破竹の連勝劇。遂には暮れの鳴尾記念、そして年明けの京都金杯と重賞を連勝し、関西を背負う立場の馬までに成長。夏の上がり馬とはよく言うが、その言葉が最も似合う馬がタマモクロスと言っても過言はない。そして、GI・天皇賞(春)に向けた闘いが始まる……。

常識を遥かに超えた名馬タマモクロス≪2≫

-:京都金杯の後は、天皇賞(春)への重要なステップとなる阪神大賞典ですね。

小原伊佐美元JRA調教師:どうしても欲しかったんが、天皇賞(春)というタイトル。タマモクロスにはそれを可能にする素質も十分あると思っとったし、天皇賞(春)の前に一度、長距離を経験させておきたかったんや。

-:その阪神大賞典では、菊花賞馬で前年の有馬記念を制したメジロデュレンという強敵がいましたが、単勝170円という圧倒的な支持を得たのはタマモクロスでした。競馬ファンも“本物”と認めていたんですね。

小:レースではかなり苦戦したわ~。あんだけ接戦になるとは……な。


まさかの苦戦…
阪神大賞典のレース結果⇒

【注】阪神大賞典は圧倒的人気のタマモクロスを他陣営が意識しすぎる余り、逃げたダイナカーペンターが作り出したのは、1000m通過が1分6秒6、2000m通過が2分11秒0という超スロー。直線ではダイナカーペンター、タマモクロス、マルブツファーストの3頭の激しい叩き合いで、そのまま3頭が鼻面を並べてゴール。3頭同着ではないか…と思わせるほどの大接戦だったが、結果はタマモクロス、ダイナカーペンターの1着同着に。

小原伊佐美

小:ここまで後方一気で勝ち上がってきたからな。形上は辛勝やったけど、前々で競馬ができたんはホンマに大きな収穫やったと思うで。ただ、これまで通りの稽古じゃ、天皇賞(春)も危ないんやないかと思うたし、これまで以上に負荷をかけて、悔いのない仕上げをしたんや。

-:先生が課したハードトレに耐え抜いたタマモクロスも凄いですよね。でも振り返ると、昨年のこの時期にようやく未勝利を勝ち上がったような馬が、破竹の5連勝(重賞は3連勝中)でGIの舞台に。しかも、メリーナイス、メジロデュレン、ゴールドシチーらのGI馬を抑えて天皇賞(春)で圧倒的な1番人気に。

小:ホンマにこの天皇賞(春)だけは負ける気がせえへんかったし、そう言えるくらいの仕上がりやったんや。あとは南井の乗り方ひとつ、そう思っとった。

-:すでにこの時点で700勝を上げて一流騎手の仲間入りをしていた南井騎手ですが、GIに関しては未勝利。南井騎手には相当なプレッシャーがあったのではないですか?

小:そやから、南井には“オープン特別に乗るような感じ回ってくれば勝てるで”って言うたんや。

-:南井騎手も先生のひと言でたいぶ楽になったんでしょうね。と言いますか…先生はこの時、本当に絶対的な自信を持っていたんですね。

小:そうや。


鞍上とともに念願のGI制覇
天皇賞(春)のレース結果⇒

【注】天皇賞(春)では、後方からの競馬となったタマモクロス。ただ、道中のペースが緩んだところで徐々に進出し始め、中団まで押し上げる。4コーナーを回って先頭に立ったのはメジロデュレン。ただ、そこからの伸びがなく、ランニングフリーとの叩き合いに。その2頭の内を突いてきたのがタマモクロスと南井騎手で、最後はランニングフリーに3馬身差を付けての圧勝劇。6連勝で天皇賞(春)のタイトルを奪取、南井騎手にとってもこれが嬉しいGI初勝利となる。

-:距離を不安視する声も聞こえていましたが、結果的には3馬身差の圧勝。天皇賞(春)のタイトル、そして南井騎手も念願のGI制覇。インタビューで先生が“ホンマは4、5馬身は離して勝つと思っとったのに…”と話していらしたのをよく覚えています。

小:ワハハッ(笑)

-:そして次は、天皇賞(春)は距離適性を理由に回避したニッポーテイオーとの対決で注目となった宝塚記念。そのニッポーテイオーは、天皇賞(春)の3週間後に行われた安田記念でGI3勝目をマーク。まさに“頂上対決”でした。

小:宝塚記念での敵はそのニッポーテイオーだけ。レースでは直線でニッポーテイオーを見る形になれば、勝てるんやないかとね。ただな、カイバも食わんし、レース当日は馬場が渋るし…。正直、この宝塚記念に関して不安の種はあったんや。

小原伊佐美

-:絶対的な自信を持たれていた天皇賞(春)とは少し風向きが違ったんですね。でも、結果的にはニッポーテイオーを力でねじ伏せて2馬身半差の快勝でした。


頂上対決も難なく突破
宝塚記念のレース結果⇒

【注】この宝塚記念で先手を奪ったのはメジロフルマーで、2番手にニッポーテイオー、対するタマモクロスは中団よりやや後方を追走する形。向こう正面あたりから少しずつ進出を開始し、第4コーナー付近ではメジロフルマーを捕らえて先頭に立つニッポーテイオーの背後に忍び寄っている。そして残り1F付近で馬体を併せて2頭の叩き合いかと思われたが…馬体を併せたのもつかの間、アッという間に抜き去り、7連勝で宝塚記念を制覇。

小:宝塚記念も勝ったことで、秋の天皇賞もジャパンCも非常に楽しみになったんや。これなら、史上初の天皇賞春秋連覇も…とな。

-:そして次は、タマモクロスのクライマックスとなる………続きは次回へ。