安藤勝己×川田将雅


いよいよ幕を開ける2014年のクラシック戦線。桜花賞ハープスター、皐月賞トゥザワールドと、何れも最有力馬と目される両横綱に騎乗するのが、こちらも本年の全国リーディングをひた走る川田将雅騎手。昨年度のJRA最高勝率騎手を獲得しており、巷では安藤勝己との共通項も囁かれている。満を持してここに、新旧・最高勝率騎手のスペシャル対談が実現。現在、競馬ファンが最も知りたいであろうスターホース、そして騎乗論について、両人がギリギリのラインまで語り尽くしてくれた。

日本一勝つジョッキーになるために


-:安藤さんが引退してから1年、競馬に乗られなくなってからは1年半近いですが、川田騎手から見て、現役時代の安藤勝己はどんなジョッキーでしたか?

川田将雅騎手:午後にスゥーと出てきて、パッと勝って、シャッと帰りはる人でしたね。

安藤勝己元騎手:今は乗り鞍をセーブしてるの?

川:いえ、していません。去年、勝率で1位になったもんだから「今年も、もう勝率を狙ってるんやろ」とか、そういう訳じゃないんですけどね。ただ、確かに年末は狙いました。

-:てっきり、今もそれがポリシーなのかなと?

川:与えられた仕事の中で、勝ち切ることに重きを置いているというか、やっぱり2着じゃ意味がないですし、去年の暮れに痛いほど痛感しました。負けてしまったら、ゴールを過ぎた瞬間にハナが出ていないといけないと。前後で出ていても、ハープスターはそれで負けてしまった訳ですから、それはもう取り返すことができないので、尚更、勝ち切るということに重きを置いています。

-:去年は確かフェアプレー賞も?

川:去年は10月ぐらいまで制裁点が0点だったんですよ。それもあって、余計に気を付けて乗っていたんですけど、ゲートの中の突進で戒告を取られたんです。自分の不注意でブツけてとかいうのだったらわかりますが、一生懸命何とかしようと思っているのに、馬がパニックになってガーンと突っ込んだことを騎手のせいにされてしまったので……。ただ、もちろん安全に乗ることが大前提だと思いますし。今まで、何回も騎乗停止になりましたし、人を怪我させてしまったこともありますので、尚更、人に迷惑を掛けずに勝ちたいという思いはありますよね。

安藤勝己

-:リーディングに関しては、しゃにむに獲りにいくというよりは今の騎乗スタイルで獲れれば良いかなという感じですか?

川:いや、リーディングは獲りたいです。日本一勝つジョッキーになりたいですから。それは常々思っていることですね。去年も年明けからずっとリーディングを獲りたいと思っていましたしね。最終的には獲れませんでしたけど、その中で僕が最高勝率のタイトルを獲らないと、祐一さんが騎手大賞まで獲ってしまうので、そこは是非とも阻止をしたいという思いでした。 だからと言って、極端に乗り数を減らした訳ではないですし、与えられたことをやっていく中で結果的に獲れたものだと思います。そういえば、安藤さんが引退される直前は「自分がちょっと下手糞になって負けるぐらいなら、勝たんでエエ」とおっしゃっていましたよね。そういう思いに至ったのは幾つぐらいの時ですか?

安:ユウガのように、勝ちたいという思いがそんなに強くなかったからね。そういうのがプレッシャーになっちゃうから。勝つということはすごいプレッシャーで、勝ちに焦っちゃうし、オレが乗っていて最後、勝とうと思うことが一番馬に良くねえなと。知らない間にどっかで動かしちゃってるというかね。だから、負けてエエんや、というぐらいで、勝つもんは勝つんや、というぐらいで乗るというか。

川:その勝ちたい思いが無駄なことをしてしまうということですよね?

安:そうそう。馬に伝わってね。しかも、最後の方はオレも馬への当たりが硬くて。「もっと前に行け」と、周りは馬のことだけを考えて言うから、オレの当たりの酷さが分からないのかと(笑)。そんなことを言ったって、オレがやったらダッーと行っちゃって、抑えが利かなくなるんだから。その分、勝つ負けるじゃないんだから、自分でカッコ悪いことをやりたくねえから、そういう指示される馬はもういらんと思う訳よ。反対に黙って乗せてくれる馬の方が良いと、(エージェントの)井上さんに言っとった。でも、勝つ馬は勝っとったよ。

川:若い時はそうじゃなかったですよね?

安:若い時は勝ちたいとばっかり思ってた。それは当然必要だったし、馬によってはそう思った方が良いヤツもおるよね。ズルい馬とか。

安藤勝己

川:それは、考えが変わるキッカケは何だったんですか?

安:やっぱり強い馬に乗るようになってからやわ、中央に来て。強い馬に乗るようになると、反対に強い馬に限って反応が良い。硬くなって勝ちばっかりを考えていると、変なところで動いちゃったり、反対に内なら内でジッとしとかなきゃしょうがないから。途中で外に出してとかすると、結構ちょこちょこ脚を使うから、それで終いの脚が思ったよりなくなっちゃったり、だから腹を決めないとしょうがないと思って。そういうことは勝つと思ったらダメやと。この前のサトノアラジン(ゆきやなぎ賞)も、岩田が下手に乗ってるなと思ったもん。

川:やっぱり勝たなきゃいけないという馬ですからね。

安:早くから外に出して、中途半端に掛かったりで、あのまま内でジッとしてりゃ良いのに、外に持っていったり、あの時点で勝ちに行くという気持ちになっているから、終いは同じ脚色になっちゃって。もちろん競馬に乗ってたんで、岩田の気持ちも分かるけど、やっぱりああいう気持ちを道中なくさないと、どれもこれも勝つ訳じゃないんだから。案外、こんなもんだったのかと、あまり期待していない時はジッと行くところを行けば一番良いかもしれない。パッと開いて、シャッーと。

川:自分も、勝ちたい、勝ちたいという気持ちが強過ぎて、動いてないのに動かしたくなったり、勝負所で付いていけないけど、付いていかないと勝てないから、というのはありますね。でも、手応えがないことに不安だから、より求め過ぎちゃって、それを馬が感じて、余計に嫌気が差して動かないと。でも最近は、馬が動いてくるのを前よりは多少は待てるようになりました。無理やり動かすのではなく促しながら、馬が動いてくるのをちょっと待つというのを。そうすると、前だったらそのまま苦しいばっかりでダラダラとしていたのが、直線に向いたら急にスッと伸びたりだとか。やっぱり焦りというのが一番駄目ですね。

安藤勝己

安:勝てるチャンスをなくすのもそういうことで、やっぱり自分の馬の能力をある程度は自分で把握しないと。本当に強い競馬をして、勝てるのかと、まずは疑わなくちゃ。自分から動いていって、ここから動いていったら、確かに位置取りが後ろだなと思ったら、どうしても早く動いちゃうじゃない、外を回ってでも。自分から動いて行って勝てる能力がある馬じゃねえぞと思っていたら、内でジッとしてるじゃない。そっちの方がチャンスがある。負ける時は見た目が悪いかもしれない。負けた時は「なんで早く動かん」と言うけど、「早く動いて勝てる馬じゃねえ」って言うの。乗っている側じゃなえと分かんねえもんな。

こういう流れになったら、やっぱり内でジッとしているしかないとか、そういう競馬をするようにならないと、本当に勝つチャンスは訪れん。2着、3着、4着とかなら来れるもん、外を回って安全な競馬をすれば。だから、オレも最後の方は強い馬に乗るとそういう競馬もできんようになって、自信がなくなって。「絶対に外を回しったって勝てなかった」と周りから言われて、そういう風に見られるということは、騎手として落ちているということだから。オレは乗り方については言われたくなかったな。

調教師とか馬主は、自分の馬が強いと思い過ぎているから、ある程度前に行って不利のない競馬をすれば勝つと思っているけど、そんなもんじゃねえと。馬は一頭一頭、能力によっては自分の中で把握しないと勝つチャンスはない。特に大きいレースはそんなような気がするな。なかなかG1でも強い競馬をする馬というのは本当に少ないもんね。

川:こんなとこが開くんやということもありますもんね。

安:案外G1でも、こんなんが負けたんや、という時でも一番楽な競馬をしてるんだもん。G1に乗ると、どうしても安全なレースをしちゃうから。この馬は安全なレースをしても勝てるというのを自分で把握しないと。ハープスターのような馬は反対に冒険をする必要はないし。最後に桜花賞を勝ったマルセリーナなんかでも「行け、行け」と言われて、行けなかったから。エエやんと腹を決めたら、スボーンと脚を使ったけど、結果的にはあの馬はあれぐらいの距離が合っているし、終いの脚に賭けた方が良い馬だもん。

川:一瞬しか脚を使わないですもんね。

安:馬も段々と変わってきたし。最初の頃はズブい馬だなと思ったけど、その頃にすごい調教の動きが良くなって。「元々、そんな長い距離の馬じゃない」と言っとった。あんな脚を使うとはこれっぽっちも思ってないもん。馬って変わってくるんやて。だから、行くにも行けないし、半分諦めて開いたところでパッと動いてくれたから。今思えば、やっぱりあれが合ってたんだろう。あの後、全然活躍せんかったもん。

川:引退する前に僕がマーメイドSで勝たせていただきましたが、あれが桜花賞以来の勝利ですもんね。

安:でも、桜花賞の時はすごい脚を使ったよ。

安藤勝己

安藤勝己からのアドバイス


川:安藤さんはゲートを出てからあまり出していくイメージがなくて、大体がリズム良く馬に任せてというイメージがありましたね。

安:ちょっと出していったら引っ掛かるから(笑)。位置なんか関係ないだろうと自分の中であったから、わざわざ出していくということはそれを取りに行く訳だから。でも、ユタカちゃんでも全然出してないもん。長手綱でフワッと行くだけで、そんなブォーンと絶対に仕掛けてないから。馬によってはその方が合う場合もあるだろうから、確かにそればっかりじゃないと思うよ。

川:僕もデビュー当時は、やらないと動いてくれない馬に乗ることが多かったので、結構ゲートから踏んでいっていましたね。

安:地方の騎手はある程度、出すのは出すんだわ。やっぱり掛かる馬は掛かるよ、みんな見ていると。

川:内田さんも結構出していかれるイメージがあります。

安:知らない間に出しちゃうんだよ、腰を入れて。

-:最後に、押しも押されぬリーディングジョッキーなので何も言うことはないと思うんですけど、今の川田ジョッキーを見ていて、こうした方が良いんじゃないというアドバイス的なものが安藤さんから何かあればお願いします。

安:正直、もうちょっと綺麗に乗って欲しいな。動かせることは分かるけど、やっぱりそこの中でみんながユウガのマネをするから、その感じで綺麗にというのを自分の中で変えていって。デットーリなんてやっぱりカッコ良いじゃない。そういう点も魅せる仕事でもあるんだし、俺らは歳だったから変えれなかったけど、まだまだ幾らでも変えたれるんだから。あそこの中でもっと綺麗なフォームというか、そういうのを求めるね。みんな何で、あんなにペッタン、ペッタンやるのかなと。できれば綺麗な方がカッコ良いじゃない。そこの中で動かしたら良い訳で。それはあれの方が楽だよ、人間は。乗っている方は絶対に楽だと思う。それよりもうちょっとピタッと乗ってほしい

川:キツいですけどねえ。

安:そんなことはないよ。動かすことを思ったら、もっとグッグッと推進させるのに、「もっと綺麗に」と言ったら、もっと苦しいと思うよ、絶対に。もっともっと苦しいと思う。

安藤勝己

川:馬の質が上がることでああやらなくても、無理に押さなくても勝てる馬が増えてきたので、前よりは回数的に確実に減ってはいるんですけど、だからこそ、その中でより違う動かし方をできるようにならないといけないな、と思っていますけどね。

安:それを求めるのは自分の中で動かすことも必要だけど、魅せることも必要じゃないかなと。みんながリーディングジョッキーのマネをするんだから。

川:最後の最後でのプラスアルファでと思って使っているので、毎回使う気はないですけど。道中できるだけ脚を溜めて、それを爆発させるために。

安:どれだけ馬の力をリラックスさせて走らせることが、終いの伸びに繋がるんだから。追う、追わんというのは馬によってはあるけど、速い馬なんかはそうじゃないから。

川:そうですよね。癖もあります。

安:馬って、強い扶助ばっかり使うと、馬だってそれに慣れちゃうし、その扶助で効かないようになったら、どうにもならないんだから。まあ、走る馬はそういうことは少ないけど。ズルい、本当に走る気のない馬は強い扶助を使うと、段々とそれ以上の扶助を使わないと馬が一枚上だから、全然動かなくなるから。一時、ゴールドシップがそうじゃないかなと思ったの。内田が変に扶助を使って強引な競馬ばっかりをし過ぎるから、馬が嫌気を差したんじゃないかなと思って。

ゲートを出て押して行ったって、まだ馬がバランスを取れてないからな。上に跳んでいるのに、押したって前に行かないからな。そう思うと、馬が重心を取れるまでに真剣に追ったら、余計に馬が嫌がると思うんだよ。そういう面で色々と考えて乗らなきゃダメだなというのは、みんな別々だから。馬は一つ、一つ違うし、その時、その時によって違うし。ハープスターでも突然ボーンと行く時が出てくるかもしれないよ。そういう危惧を含めて、やっぱり綺麗に乗ってほしいな。

川:今のハープスターを見ていると、大いにありえますよ。そういうことですね。安藤さん、ありがとうございます。

-:川田騎手も、本日はお忙しい時間を割いていただき、ありがとうございました。今年はリーディング、そしてクラシックのタイトルを総ナメにする姿を期待しています。

川:初めて来たチャンスですから。何より新馬からこれだけの馬に乗せていただき、G1に向かうのは初めての経験なので、しっかり結果を出したいと思っています。去年勝ち切れなかったのは僕の経験不足でしょうし、そういうプロセスを今は勉強させてもらっているので、その勉強をさせてもらっている中でシッカリと結果を得ながら学んでいきたいなと思います。ありがとうございました。

安:なかなかここまでのチャンスはないからな。頑張れよ!

川:ありがとうございます!

安藤勝己