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音無秀孝調教師

今回もトップスタートが前提

-:あと、馬場に関してなんですけど、NHKマイルは先ほども言ったように、府中の馬場の中でもちょっと柔らかい感じでスタミナ傾向がありました。33秒台のキレる馬にとってはちょっと走りにくいかなというのがあったと思います。

音:今度は、コースが(Bコース→Cコースに)替わりますよね。多分、マイルCの時よりもいいと思いますよ。ただね、いつも言っていますが、ポイントはひとつなんですよ。スタートして3コーナーまで、向こう正面の緩い上りを速くしなかったら、結構粘れると思います。あとはあそこからずーっと下っているんですよね。だから、直線の坂を上るまで楽できたらいいなと思います。

-:じゃあ、第一条件としてはトップスタートですね。

音:そう。東京のマイルを逃げ切るためには、3分割して考えるといいんです。それはもちろん浜中もよくわかっていると思います。スタートしてから3コーナーまでの上り、3コーナーから直線に向く下り、そして最後、直線で上ってゴール板を通過するまでの1ハロン半くらい。この3つです。1600の中では、3コーナーへ上ってからが一番長いんですよ。だからその長いところをいかに遊ばせることができるか。この間みたいにホウライアキコに突付かれたんではちょっときついなと思いますね。

-:今回は、ジャスタウェイだけじゃなくトーセンラーだとか古馬のビッグネームが揃っていて、ある程度ジョッキーの視線は後ろにあるはずなので、前目のミッキーアイルとしたらちょっとした一人旅ができるかもしれないですね。

音:そうですね。



-:あとは、ミッキーアイルは直線で内にも外にも行くと言っていましたが、NHKマイルはどうでしたか?

音:おんなじでしたね。あれをムーアは「子供っぽい」と言ったのですが、気性かもわからないですね。

-:そこはあまりネガティブな要素として捉えるのではなくて、ある程度、自由奔放に走っていると、プラスに考えてもいいかもしれないですね。

音:アーリントンCの時に、ポーンとトップスタートを切って、トップスピードまでも一番速いから、そこから3馬身4馬身5馬身とスーっと引き離して3コーナーまで行ったでしょう。あの時は、7~8馬身ありましたよ。ところが、あそこで浜中はそれ以上行かせずに後ろを引きつけるんですよね。そうしたら4コーナーではすぐ後ろに後続馬が来ていて、そこでエンジンをかけ直そうとしたらフワっと遊んだんですよ。中盤で遊んで、直線を向いてもまだ遊んでいるという状態でした。でも、叩かれてまた最後伸びたんです。それで突き放したでしょ。だから、あれをまたできないかと個人的に思っています。

-:あれを高いレベルでもう一回やってくれたら面白いレースになりそうですね。

音:だから、3つに分けるとしたら、アーリントンCの時の勝ち方を思い出してほしいです。阪神も同じように直線で坂はあるわけだから。坂を上がった時には突き放しているわけでしょう。


「あの馬はトップスタートが切れるので、もし、それができたら54キロの斤量プラスαができるんですよ。そこで粘り込みが可能じゃないかな、というのも僕の頭にはあります」


-:先生の理論でいうと、NHKマイルはイーブンペースで脚を使ったけど、今回はちょっと中盤でタメを作って息を入れて、余力を持ってゴールを迎えたいということですね。

音:あの馬はトップスタートが切れるので、もし、それができたら54キロの斤量プラスαができるんですよ。そこで粘り込みが可能じゃないかな、というのも僕の頭にはあります。

-:前回の10番枠というのは偶数枠でプラスだったけど、今回はもうワンランク内の偶数が欲しいですか?

音:偶数なら別に外でもいいです。トップスタートを切るんだから、別に問題無いですよ。

-:府中の内に切れ込んでいくのは、気持ち悪くないですか。

音:トップスタートなら、切り込んで行っても邪魔しないでしょう。

-:ここまで、ちょっと弱気な感じなので大丈夫かなと……。

音:ジャスタウェイはやっぱり強いですよ。ジェンティルドンナを負かした馬ですから。簡単にはいかないと思っていますよ。それでもミッキーアイルは自分の競馬をするだけです。それでどういう結果になろうと、それは受け止めるしかありません。

-:それだけのポテンシャルを秘めた馬ですからね。展開など、いろいろな要素が向けば可能性もあるんじゃないですか?

音:展開利というよりも、自分の競馬ができるかということでしょうね。ハイペースはダメですから。理想はこの間のようなペースですが、浜中とミッキーアイルが人馬一体となってペースをつくるしかないですからね。

ジャスタウェイは一目置く存在

-:今回は馬場も変わるし、コースも替わりますね。

音:ただ、雨だけは降らないでほしいね。

-:雨が降ったらダメなんでしょうか。雨は合いそうなイメージですが。

音:降った時に走っていないから、よくわからないけどね。他の馬が苦手だったらいいんだけど。雨が降ったら、差し馬にはキツくなるでしょうね。

-:晴れだったら固い馬場が得意な馬しか来れませんし、雨が降ったら固い馬場が得意な馬は逆に来れませんからね。雨が降る降らないで全然、馬場の特徴は変わりますからね。これだけボリュームがあってスピードがあるので、雨だったらプラスに働くと思うのですが。

音:前回のNHKマイルCのレースがミッキーアイルにとって、あれが一杯のレースなのかもしれないですね。あの着差を考えると……古馬はもっと強力だからね。もっとポテンシャルを上げて、前走以上の力を出さないといけないなと思っています。

-:疲れに関してはどうですか。

音:疲れはないですよ。今朝も乗った人間が「イイですね」って言っていました。疲れもとれていると思うし、今日は1週前で追い切りをやらなければいけない中で、入りをハイペースにしませんでした。いつも50秒そこそこと速くなってしまうので、「それはダメだよ」と伝えていましたから。今日は良かったですね。



-:馬が行きたがるのを無理やり抑えずに行っていましたね。

音:今日はフワっと乗ったから良かったよね。来週は猛時計になってもいいですよ。ただ、理想を言えば、前回の追い切りは失敗だったかなと思っています。直線で最後の1ハロンを追って欲しかったけど、途中で速くなったから最後を流しただけになったんですよね。

-:帳尻を合わせたということですね。

音:やっぱり最後の1ハロンは追えないといけないですね。あれで追っていたら49秒ぐらいになっていたでしょうか。理想は14-13-12-12秒なんですよ。51秒ぐらいで来て、ラストを12秒ちょっとで来る時計がいいと思うんです。

-:それは競馬新聞を見て、答え合わせしてます。

音:今日のジャスタウェイは良かったね(笑)。52秒で11.8秒だったでしょ。素晴らしい。ああいう時計にしないといけないね。

-:でも脚質が違うじゃないですか。ミッキーアイルはスピード系で行くタイプだし、上がりがかかっても許しあげてもいいのではないかという気はしますけどね。

音:やっぱりダメだろうね。しっかりやらないとね。使った上積みとか考えれば、中3週ですから普通の条件戦なら馬なりでやるんですよ。今回G1で強い相手と競馬するのに、今回使ったら放牧って決まっていますから、しっかりやりますよ。


「浜中とはよく相談したいなと思います。アーリントンCが一番良い例だと思いますから」


-:一回使った上積みを見込んで、古馬に挑戦ということですね。

音:前回も3本しっかりやっているんですよ。ところが、皆さん知っているように音無厩舎は坂路オンリーの仕上げでしょう。日曜は馬場に入れても追い切りは坂路ですから、そういう側面から見たら、やっぱり久々は太目残りになってしまいます。

-:それでも5連勝ですから、古馬にとっても手強い存在には違いないと思いますよ。

音:どう思われているかはわかりませんが、ハナに行っている馬をマークしている馬もいるだろうし、仕掛けが早め早めになりますからね。そうなったら自分たちも終いが苦しくなってしまいますから。

-:前をマークしようと思っても、後ろにジャスタウェイがいますからね。

音:あの馬自身がそういう競馬をしたら、終いの脚を失くすと思うんですよね。あの馬は中団でじっとしていて、直線弾けるような馬ですから、そういう乗り方をしてくるでしょうね。

-:ジャスタウェイはゲートがいい時と悪い時の差が激しいので、いい時は中団に行けると思うんですよね。その方がミッキーアイルにとって逃げ切れる可能性が高いかもしれませんね。ジャスタウェイが好スタートを決めて中団で構えて、他の馬はジャスタウェイが動くまで待っているならば、そこで他の馬をロックしてくれますからね。そうなると、ミッキーアイルの渋太さが発揮されます。となると、今回は緩急をつけたレース展開になると思いますが、いかがですか?

音:浜中とはよく相談したいなと思います。アーリントンCが一番良い例だと思いますから。


「展開的には、おそらく32秒台にすると後ろから差してきますよ。ミッキーアイルが勝つためには33秒フラットぐらいがいいですね」


-:色々な逃げ馬がいますからね。

音:ミッキーアイルはただの逃げ馬ではありませんよ。府中の1600mは逃げ切るのが難しいと言われますが、それはスタートして向う正面の緩やかな坂で、ハナに行く馬はすぐ脚を使ってしまうから逃げ切りにくいんですよ。ただ、行き方が問題なんですよね。そこにごまかしがあればいいと思うのですが。

-:奥が深いんですね、府中のマイルは。

音:安田記念での逃げ切り勝ちは、ニッポーテイオー(1988年)だけですからね。

-:府中自体が、差し追い込み有利ということでしょうね。

音:速い時計決着になると、行った馬は残りませんね。さっきも言ったように、NHKマイルC当日のレースで1分32秒台の決着になっていたでしょう。展開的には、おそらく32秒台にすると後ろから差してきますよ。ミッキーアイルが勝つためには33秒フラットぐらいがいいですね。

-:それでは、2つ目のG1を獲れるようにお祈りしないといけないですね。

音:僕としては、今度はあれこれ考えずに馬なりでいきたいなと。

-:先生自体のイレ込みはありませんか?

音:ないですね。安田記念は来年も挑戦できますしね。斤量は違えど、馬も成長しますから。これから秋競馬もありますし、良い競馬して無事に回ってきてほしいなと。

-:違った見方をすれば、使った上積みが期待できて、良い状態で臨める安田記念だということですね。本日も長時間ありがとうございました。

音:こちらこそ、ありがとうございました。

●ミッキーアイルの音無秀孝調教師インタビュー(前半)はコチラ⇒

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●NHKマイルC前・ミッキーアイルのインタビューはコチラ⇒



【音無 秀孝】Hidetaka Otonashi

1954年宮崎県出身。
1994年に調教師免許を取得。
1995年に厩舎開業。
初出走:
95年6月24日 3回中京3日目12R キーペガサス
初勝利:
95年7月23日 2回小倉4日目11R イナズマタカオー


■最近の主な重賞勝利
・14年 NHKマイルC/アーリントンC/シンザン記念(共にミッキーアイル号)
・13年 ジャパンダートダービー(クリソライト号)


1979年に騎手デビュー。1985年のオークスをノアノハコブネで制したが、通算は1212戦85勝と決して振るわなかった。脚光を浴びるようになったのは厩舎を開業させてから。開業年にイナズマタカオーで重賞を2勝。 以降も坂路を主体とした調教方法で実績を積み重ねると、オレハマッテルゼ、ヴィクトリー、オウケンブルースリ、カンパニーらのG1馬を輩出。常にリーディング上位に名を刻む栗東のトップステーブルとして、地位を固めている。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて17年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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