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中山義一調教助手

中山義一調教助手(栗東・松永昌博厩舎)


打倒・オルフェーヴルへ、申し分ない状態

-:ウインバリアシオンの成長度合いはいかがでしょうか?

中:ダービーの頃は馬の完成度で7~8割ぐらい。菊花賞でパンとしたら勝負できると踏んでいたけど、まだユルさが残る状態でした。次は天皇賞(春)に向けてと考えていたけど今は100パーセントに近い状態にあると思います。現状で強い馬(オルフェーヴル)と勝負にならないなら、本当に向こうの馬が抜けた存在であると認めざるを得ない。私が携わった中では、今までの競馬人生で最も素晴らしい馬だと思っているし、仕上がり状態も文句ないので、レースには胸を張って出せることは断言しておきます。

-:天皇賞(春)に向けての抱負を聞かせて下さい。

中:直線で馬体を併す形に持っていければ、勝負できるのではないかと思っています。自分の競馬の形を持っている馬なので、今まで通りの競馬になると思います。掛からない馬なので、調教は非常に乗りやすい馬で、いつでも併せ馬を消化出来るし、入厩したばかりの馬を先導することができるほどおとなしい馬です。ただ、調教とレースは別物なので、例えば、ジャパンカップではアンカっちゃんは4~5番手で抑えたかったのに勢いがついてしまって……、というのが競馬です。それでも5着に粘れていることや菊花賞で馬群を捌くのに手間取りながら、2着まで押し上げたことを考えても能力がないと出来ない芸当でしょう。

正直なところ、競馬界にとってオルフェーヴルは負けてはいけない馬だと思っていますが、ウインバリアシオンの厩舎スタッフとしては、もし負かせるならこんなに嬉しいことはありません。前走のオルフェーヴルように強い馬が負ける場合は、負ける要素を含んだレースになってしまいがちですが、私としてはそう言った要素がなく、五分でレースをして勝ち負けして欲しいという願望はあります。またウインバリアシオンはそれぐらいの能力を秘めている馬だと手応えを感じています。


-:ハーツクライ産駒の距離適性はどのように感じていますか。

中:今までにハーツクライ産駒はウインバリアシオン一頭しか乗ったことがないのですが、イメージとしてはテンションが上がるという馬は少ないように思います。

-:同じハーツクライ産駒で武田博厩舎のメイショウナルトは非常にテンションが高い馬のようですが。

中:メイショウナルトは気負ってカッーとなってしまう時と行く気を見せない時と両極端な面があるとのことで、厩舎スタッフが話を聞きに来たことがありましたが、それは育ってきた環境の違いとしか言えないようにと思います。



-:ウインバリアシオンもジャパンカップの時のように一気に脚を使ってしまう懸念はないでしょうか。

中:レースで3速からいきなり6速にギアチェンジをするような一気に脚を使うタイプなので、3速から4速、5速、6速と順番にギアチェンジしていくような形になればもっと競馬をし易いのかも知れません。でも、今までこの馬の手綱を取ってきたユウイチ、アンカっちゃん、ユタカと百戦錬磨の騎手が揃っているので、それぞれ乗り方は心得ているように思います。私たちは文句のないところまで仕上げられるかが勝負で、後はこの馬のポテンシャルを生かしたレースをしてくれれば、良いと思っています。

-:安藤騎手とは相性が良かったように思うのですが?

中:確かに青葉賞以降、アンカっちゃんが騎乗するようになって馬の走り方が良くなったし、上手に乗ってくれたと思います。ダービーと菊花賞2着の悔しさもあるので、アンカっちゃんでオルフェーヴルを負かしたいという気持ちも確かにあります。

-:武豊騎手での出走は2走目となりますね。

中:ユタカは「まだユルさが残っているので、秋になったらもっと楽しめる馬」と言ってくれたけど、状態に関しては今までで一番良いと思います。100パーセントに近い状態で、天皇賞(春)を迎えられると思っています。後は当日までに蹄の状態が悪くならないことを祈っています。経験を積んでレースが近付いていることを馬自身が感じ取ってくれているのか、この馬なりにやる気を見せてくれています。「パドックでも寝ていますね」と良く言われるぐらいおとなしい馬ですが、テンションが上がらない分、消耗せずにレースで確実に脚を使えるのではないかと思います。

-:パドックではおとなしいぐらいの状態が良いのでしょうか?

中:そうですね。パドックではおとなしいぐらいで良いと思います。ただ、馬場入場時のキャンターに下ろす際は、元気が出てくる感じはあります。と言っても他の馬との比較ではなく、ウインバリアシオンなりに元気が出るといった感じです。

-:馬体重に関してはいかがでしょうか?

中:関東圏への輸送が入ると10キロ前後は減るのですが、決してカイバを食べないということではないので、510キロ前後での競馬になっています。今回は京都での競馬ですので、520キロ前後が理想の馬体重だと思います。

-:522キロが今までの最高馬体重ですね。

中:そうですね。脚長の体型で体も成長してきていますし、しっかり通常通りの調教を積んでのプラス体重なら成長分と受け取って貰っても結構です。馬体重を気にして体を絞るということはこの馬に関してはありません。

-:最近の競馬で大型馬の長距離馬は珍しいように思います。

中:体が大きいと長距離を走るにあたってガス欠になりやすいのではないかと思います。心肺機能が参ってしまうのではないでしょうか。ただ、この馬は大型馬だけど薄手なので、距離をこなすのではないかと思います。



-:1週前追い切りの動きはいかがでしたか?

中:悪くない動きでした。ピッタリ併せてしまうと時計が出過ぎてしまうので、レースを想定した稽古内容でした。前に馬を置いて時計一つ(1秒)ぐらいのところから追いかけて、直線だけ伸ばすいつも通りの調教を消化しています。騎乗したユタカには直線の反応を確かめて貰いました。年明けから2戦消化していますし、稽古のヤリ過ぎだけが怖かったし、あまり時計が出過ぎると、コズミの心配も出てくるので、良い調整が出来たと思います。ユタカも「前回の日経賞時よりウンと良い。馬も大分しっかりとしてきた印象を受ける」と言ってくれました。

-:最終追い切りの予定はいかがですか?

中:馬がボーとしているようなら、ユタカに乗って貰うし、問題なければこっちで仕上げます。どっちにしても一杯にやるつもりはないし、整える程度の調教になると思います。昔のように7ハロンから一杯に追うという調教ではなく、おつりを残した調整で良いと思います。直前に目一杯の調教をしなければならない状態では勝負にならないからね。

-:レースを楽しみにしています。

中:がんばりますので、応援よろしくお願いします。


「ホースマン人生最高の手応え」
中山義一調教助手インタビュー前半→

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(取材)高橋章夫




【中山 義一】 Yoshikazu Nakayama

父は元騎手でアラブの牝馬アオエースで読売カップを制している中山義次。ギャンブル色が強かった当時の競馬に疑問を持ち、馬術の世界を目指し追手門大学を卒業。しかし現実的に生活を考えると競馬界に入るしかなかった。初めて所属したのは開業間もない北橋修二厩舎。厩舎解散まで25年間所属した北橋厩舎ではエイシンプレストン、スターリングローズ、など数々の馬の調教を任された。思い出の馬は愛らしい顔が印象的だったゴールデンジャック。ウインバリアシオンに惚れ込む栗東の名物調教助手。