安藤勝己インタビュー

①[1976-2003]笠松競馬時代の思い出



■中央GⅠ勝利の夢をかなえてくれたビリーヴ


-:今回はJRA入りしてからの話になりますが、中央での思い出の馬についてお話していただきたいと思います。安藤さんは、数々の大レースを制していますが、常々「一番の思い出はビリーヴ」とおっしゃっていますよね。

安:「とにかく、JRAに来たかった理由というのが、中央のG1の雰囲気を知っちゃったから。ああいうところで勝ちたいなっていうのが大きくて。笠松在籍時にライデンリーダーで乗った桜花賞が中央G1初体験でね。その時には中央移籍できるなんて全然思ってなかったから。交流でちょくちょく中央に来るようになって、G1も結構乗せてもらって。

だけど結局勝てなかったんだよね。ダイタクリーヴァでも勝ったと思ったら負けちゃって。早くG1を一つ勝ちたいと思っていたからね。やっぱ最初のG1勝ちをもたらしてくれたビリーヴが一番印象に残ってるね」

■ダービーでも不安がなかったキングカメハメハ


-:競馬社会の最高峰、ダービーに勝ったキングカメハメハはいかがですか?

安:「能力もそうだけど、とにかく不安がない馬だったね。返し馬にしろゲートにしろ折合いにしろ、精神的な部分がドシッとしてたしね。乗ってて安心できるというか。不安な点がないというか。だから正直ダービーの時も1番人気になっても、まーまず勝つやろと」

-:プレッシャーはなかったっておっしゃってましたものね。

安:「そうね。あの馬だったからだと思うんですよね。強い馬はいっぱいいるけど、強いだけじゃね。道中カーッとしたり、不安があったりここでこうなったらどうしようとか考えちゃうと、ああいう風に落ち着いて乗っていられなかったと思うんだよね。

ただ、2歳から3歳の初め頃は、それほど突出していたわけではなかったんですよね。3着に敗れた京成杯の後、すみれSあたりから急激に力をつけたというか、覚醒した感じです」

■一番合っている馬ダイワメジャー


-:ダイワ兄妹も印象深いですね。

安:「ダイワメジャーは乗りやすい馬だったんですよ。一番、俺に合ってるって感じはしてたね。ゲートうまいしね。前には必ずいけるし。ただ、持っていた能力はもっと上のものがあったと思うよ。一頭になるとフワつくところがあるし、そうかと思えば一瞬ではキレないし、だけど並んで追い合いになると強いっていうか。もう一回伸びるんだよね。だから相手の馬とぴたっとくっつくと、抜かせない」

-:並ばせる形がいいってことですね。

安:「そうそう。自分の相手になる馬はどれかというのを見つけて、そっちのほうに寄っていって、並ぶともう一回頑張るっていう感じの馬だったね。

スカーレットとはまったく違うのよ。ほんと兄妹と思えないくらい。フットワークから全然違うしね。どっちもバネはあるんだけど、スカーレットは軽い感じなのよ。メジャーは重量感のある跳びでね。どっちかというと前へ突き刺さるというか。スカーレットはちょっと浮いていくような軽い感じ。全く兄妹とは言えないほどタイプが違ったね」

■能力だけで距離を克服したダイワスカーレット


安:「ほんとはね、スカーレットはあんなに距離持つとは思わなかった。デビュー前に豊ちゃん(武豊騎手)が調教乗っていて、僕も乗っていたんだけど普通なら豊ちゃんがレースで乗るところだったんだよ。ただ、ちょうどデビュー戦の時に豊ちゃんが空いてなくて、僕が空いていたから回ってきた。デビューする前から気が前向きすぎて、短いところのほうが確実に競馬は乗りやすい馬だと思っていたね。

とにかく強いのは分かっていたから、距離と折り合いだけだと思ってたんですよ。位置はどこでもいいからずーっと我慢させたかった。それでも残り5ハロンくらいから馬が行く気になっちゃって。あの時もっと辛抱できれば、この後違った競馬ができるようになったかもしれないね。本当は自由に下げられるような馬に育てたかったんだけど、ああいう気性だから」

-:逃げるしかなかったわけですか。

安:「後ろから馬が来れば来るだけ行っちゃうから。最初から一回もあの馬はゲートを出していったことがなかったんだよ。それでもやっぱり持っているものが違うのか、ゲートはすごい速いし、すぐスピードに乗るって言うか、すぐその気になっちゃってるし。

あれをもっとフワーっといけるような馬になってればもっと競馬はしやすかったけどね。まあこれが持った気性だから。いい面もあるし、悪い面もあるよね。何事も。とにかくスピードのある馬で、粘りも抜群。総合力ではウォッカより上だったと思っています」

■伝説の新馬戦で素質を確信したブエナビスタ


-:そしてブエナビスタですが……。

安:「松田博資さんところの馬ってデビュー戦でいっぱい乗せてもらったんだけど、どれも慌てさせてやってないから、ゲートがあまりうまくないんですよ。だから出たままでという感じであそこの馬には乗ってたんだけど。そうすると自然とレースでは後ろの方からになってね。今思えばブエナのデビュー戦はすごい相手だったけど、最後すごい脚で来て」

-:新馬戦からなんかこの馬違うなってのがありましたよね。

安:「レース終わってからもまだ前の馬を追っかけるからね。負けたけどすごい馬やなと思った。ただ、正直見た目とか返し馬やっても、決して走るようには思えなかった。そんなにバネがあるような感じもしないしね。今でもどこで走るんだろうなって思うぐらいですよ。ただ、ブエナも女の子にしてはすごく度胸据わってる馬ですよ。

ゲートが下手だったんで後ろからの競馬が多かったんですが、桜花賞の時は4コーナーで“差せる”と確信してたね。傍から見たら危なく見えたらしいですけど、案外楽だったんですよ。オークスの時は、しんどかったですけど。春の2冠を制しただけに、三冠を獲らせてやりたかったですね」

-:数々の名馬に騎乗した安藤さんですが、超一流馬の条件とは何だと思いますか?

安:「スピードとかすごいなって馬はおるけど、やっぱそれだけじゃない。本当の一流馬ってのは精神面が必要じゃないかと思うんですよね。ブエナでもキンカメでも精神面がすごいものがあったからね。オグリキャップもね。そういったところが超一流馬になってくると違ってくるのかなって思うね」