1月14日、京成杯を制した田辺裕信騎手"

1月14日、京成杯を制した田辺裕信騎手

●騎乗3度で2勝!中山芝2000m以上は複勝率4割

どの世界にも『○○男』が存在する。例えばプロ野球の巨人や横浜で活躍し、今から20年近く前に引退した駒田徳広選手。勝負強い打撃が持ち味のプレイヤーだったが、特に満塁で迎えた打席にめっぽう強く、満塁ホームランの数は日本球界歴代5位の13本。『満塁男』という異名でファンに愛される存在だった。

騎手で一番有名なのは、『平成の盾男』武豊騎手だろう。天皇賞を春、秋合わせて14勝している。いくら年に2回あるレースといえど、とてつもない数字であり、偉大な記録の1つだ。

他に同一レースに強いということで挙げたいのが、今週1月21日(日)に行われるアメリカJCC(G2)横山典弘騎手。1991年のメジロモントレーで初めて勝利した後、ローゼンカバリーやクラフトワーク、ネヴァブションといった歴代の中山巧者とコンビを組んで、実にこのレースを6勝している。通算複勝率は5割近い。まさに『AJCC男』である。今年はミッキースワロー(牡4、美浦・菊沢厩舎)に騎乗する。

しかし近年、『2代目AJCC男』とこの先呼ばれるかもしれないジョッキーが現れた。田辺裕信騎手だ。若手の頃はローカル中心に回っていたこともあり、AJCCに初めて騎乗したのは2014年のヴェルデグリーン。ここで見事に初勝利を挙げると、翌年もクリールカイザーで連覇。ここまで3度騎乗し、2度このレースを制覇している。単勝回収率は、なんと驚異の650%だ。

1月14日の京成杯(G3)をジェネラーレウーノで完勝するなど、中山芝2000m以上に強いイメージはあった。調べてみると、先週までの近3年、中山芝2000m以上で(23.21.18.93)。勝率14.8%、複勝率40.0%という好成績を挙げていた。「これは何かしらコツがあるのでは?」と思った検量室前パトロール隊員は、田辺騎手を直撃した。

「コツはないです、走る馬に乗ってるので勝ってるんですよ」と笑顔で話し始めた。冗談を交えつつ話を進める、軽妙な"田辺節"はファンも多い。こちらが中山芝2000m以上で好成績を挙げている点について触れると「そうなんですか?そもそも僕は2200mより2000mのほうが好きですし、そして2000mよりも短い距離のほうが好きなんです」と、意外な事実まで判明してしまった。

長距離より短距離のほうが好きという、イメージとは違う回答に隊員が困っていると、気になることを言ってきた。

「そういえば、毎年の感じだとこの時期は外差しが決まるような馬場になるのですが、今年は天気が良かったこともありますし、年が明けて内に仮柵もついたことで、ずっと馬場の状態がいいんです。ペースが流れれば差しは決まりますが、毎年の中山の馬場状態より硬くていい状態で、内もいい。前の馬も全然残ってしまうから、人気になっている差し馬が苦しんでいますよね。ヴェルデグリーンが勝った時の馬場ではないと思います」。

●2018年は京成杯Vなど10勝一番乗り!

確かに今開催で「馬場が硬い……」と漏らす騎手は多い。今年のAJCCトーセンビクトリー(牝6、栗東・角居厩舎)で挑む。「テン乗りだった前走の有馬記念は、それまで掛かるタイプかと思っていましたが、うまくなだめることができましたし、4コーナーの感じも良かったんです。ただ直線で接触があって……。ブレーキをかける形になってしまいましたね。今回も相手関係次第だと思います」と、自身4度目のAJCCに向けて展望を語ってくれた。

今年は1月14日終了時点ですでに10勝。全国リーディング1位と絶好調だ。今年初重賞制覇となった京成杯のレース後、「まだ道中フワフワしています。折り合いがつくのでいいことでもあるのですが、悪いところでもあるので、遊ぶ面が改善されれば…」とジェネラーレウーノの気性面を課題に挙げながら、「まだこの馬の本気の走りが分かりません」と期待を口にした。大器と共に臨む今年のクラシックが今から楽しみである。

2017年は負傷離脱もあり、年間84勝のリーディング8位。2018年の目標を聞くと「ケガをしないこと。去年は前半いいペースで勝っていましたが、なんだかんだ2ヶ月くらい離脱してしまいました。ケガなく、騎乗停止なく、結果を出したいです」。そう言い残し、『2代目AJCC男』は電動キックボードに乗り、地下馬道を颯爽と駆け抜けて調整ルームへ戻っていった。

パトロール隊員はその後ろ姿を見ながらなんだかうらやましくなり、この原稿を書いている最中、何度もア○ゾンで電動キックボードを検索したのだった。

田辺裕信騎手"

AJCCではトーセンビクトリーに騎乗予定

田辺裕信騎手"

2015年、クリールカイザーでAJCCを勝利