元騎手という視点から最新競馬ニュースを大胆解説。愛する競馬を良くするために、時には厳しく物申させていただきます。週末重賞の見所と注目馬もピックアップ!
見ている人は見ている
2015/2/5(木)
競馬界でも、黙々と頑張ってきた騎手が陽の目を浴びる結果となりました。同期には浜中俊騎手や藤岡康太騎手と次世代のエースというより、もうすでにエースになってきている騎手がいる、田中健騎手が相棒アンバルブライベンと共に重賞制覇しました。最近の競馬界はエージェント制が引かれてからというもの、強い馬には特定の騎手が乗り、そこまで乗っていた中堅は、馬が強くなると乗り換えられることや回ってこないといった現実があります。勿論、勝ち負けの世界ですから、少しでも上の騎手に任せた方が勝率は上がりますし、負けても納得できるかもしれません。それでも、やはり少し寂しく感じてしまいます。昔のように、調教師が人を育て、馬主に頭を下げてでも弟子に乗せ、成長させてくれた時代と少し変わってきている気がするからです。そんな師弟愛に弟子も答えたいと必死にムチを振り、そんな姿勢が勝ち負けだけではないドラマを生み、ファンも名コンビとして応援したくなるのだと私は思います。
年間一桁しか勝てなかった騎手が、ずっと続けてきた努力を調教師や馬主が本当は見ていたからこその依頼、そして勝利だったのだと思います。腐らずに努力していれば「見ている人は見ている」、今回の勝利がそれを思い出させてくれたと、私は感じました。レースはスタート一番、アンバルブライベンの持ち味であるスピードと恵まれた斤量を活かし先頭に出ると、そのまま先頭を守ってのゴールは、まさにこの馬にとっての正攻法でした。そして、当馬の強みのひとつに衰えない末脚があります。普通、逃げた馬の場合、上がり時計は遅くなるのが普通です。しかし、当馬は終いに11秒台をたたき出すのですから脅威の心肺能力だと思います。次走には、苦手とする左回りの高松宮記念を予定しているようですし、是非、また名コンビで大きな壁を乗り越えて欲しいと思います。
今週の競馬は安田記念と同コースで行われる東京新聞杯と、クラシックの扉を開ける準備とばかりにきさらぎ賞が行われます。まず東京新聞杯には実力拮抗のメンバーが揃いそうですね。私が注目しているのは日曜日に5勝を挙げたノリに乗っている岩田君騎乗のフルーキーです。当馬は牝馬らしからぬ体を持ち、また器用さをも持っている馬ですし、岩田君が継続して乗ってくる馬は必ず結果を残しているイメージがあるからです。今回のメンバーに勝利できれば安田記念(※個人的にはヴィクトリアマイル希望)でも通用するでしょうし、試金石になるレースだと思っています。そして、好調な角居厩舎のもう一頭の刺客エキストラエンドも見逃せない存在です。今回の騎乗はC.デムーロの様で、内枠からスルっと抜け出せば、長く、強く追える騎手だけに勝利もあると思います。
きさらぎ賞では血統のオーケストラと言わんばかりに豪華な血統を持つ馬が出馬してきそうです。その中でも、1人気に推奨されそうなのがルージュバックです。陣営も強気に関西輸送と牝馬限定戦でない戦いに挑んできたことからも、その素質が大きいものだと物語っていますし、前走の百日草特別での勝利は、まだまだ伸びしろを感じさせられたからです。その他には、ポルトドートウィユも推奨されるのではないでしょう。まだまだ華奢な体にも関わらず、繰り出す33秒台の末脚は騎乗の豊ちゃんも期待しているのではないでしょうか。そして、やはり名コンビと言えば池添騎手とアッシュゴールドではないでしょうか。気性が荒く、難しいところはありそうですが、兄達を知る年男がどんな競馬をするか非常に楽しみです!
今週は競馬場での騎手の支払いについて教えたいと思います。騎手の大体の行動は、前々回のコラムでも書かせて頂きましたが、各競馬場には騎手がレース間で寛ぐスペースであるジョッキールームという部屋があります。それは以前、説明した個人が泊まる部屋ではなく、テレビやソファがあるのですが、そこにはジュースや、ちょっとしたお菓子が置いてあったり、食堂があったりします。午前中に軽い斤量の騎乗が終わったりすれば、午後の計量までに御飯を食べたれたりもするんですよ。京都競馬場の場合、中華料理屋さんが食堂になっていて全メニューに半分や一個もオーダーすることも可能になっています。
その食堂やジュースなど、騎手が支払いをする時は、なんと顔や名前だけで払うんです。例えば、ジュースを買う時に、係りの人に「松田幸春」と名前を言って食べたり飲んだりするんです。そうして、競馬場の変更時期になるとまとめて支払い。つまり、ツケでまとめて払うということなんです。他にもジョッキーパンツやムチの修理なども、まとめて払うことができますし、競馬場の中は信頼での支払いが未だにあるんです。
プロフィール
松田 幸春 - Yukiharu Matsuda
北海道生まれ(出身地は京都)。1969年騎手デビュー。通算成績は3908戦377勝で、その中にはディアマンテ(エリザベス女王杯)、リニアクイン(オークス)、ミヤマポピー(エリザベス女王杯)など伝説の名馬の勝利も含まれる。1987年にアイルランドの研修生として日本人騎手では始めて海外の騎乗を経験しており、知る人ぞ知る国際派のパイオニア。1992年2月の引退後は調教助手に転じ、解散まで伊藤修司厩舎の屋台骨を支え、その後は鮫島一歩厩舎で幾多の名馬を育て上げた。時代を渡り歩いた関西競馬界の証人であり、アドバイスを求めに来る後輩は後を絶たない。