水:小島茂之厩舎として、目標にしていることがあれば教えてください。

小:ひとつひとつだと思うんですよ。秋華賞とエリザベス女王杯を勝って取材を受けた際にも話したんですけれど、まずは目の前の勝負に勝たないと駄目じゃないですか。その積み重ねがGIに繋がっているので。個人的にはGIとか、重賞勝ちというのは神様っているのかはわからないですけれど、ご褒美だと思っているんです。ウチはどちらかといえばボーンっと成績が上がった厩舎じゃなくて、GIも2つは勝ったけれど、ジリジリ上がっていって。まだ一流厩舎と評価されるほどの勝ち星には行ったことはないですから。だけれど、ひとつひとつやってきたご褒美は貰えたから「基本ラインは間違っていないぞ」というのは教えてもらった気がしますね。これからもひとつひとつをキッチリやっていきたいし、出るレースは全部勝ちたいと思いますよ。

ただ、昨年初めて思ったことは、ダービーに出したいなってことですかね。その一方で今でもダービーが特別じゃないと思っている自分もいるんですよ。でもフッと思ったんですよね。「やっぱりダービーは出さなきゃ駄目だなぁ」って。今までGIも何度か使わせてもらって、パドックも入って、やっぱりいいなと思うし。どんな馬でもGIの舞台に立つ事は大変なことですが、とりわけダービーっていうのは、その世代の代表しか出ることができなくて、みんなが目標にしていて、世間の注目度も最大級のレース。そのダービーを獲るには、エントリーをしないことには始まらないじゃないですか。
ただ、そのために今までと違う事をしようという事ではなくて、今までの基本線に乗りながら味付けをして、その路線に乗せられる馬は乗せていきたいなと思いますね。例えば橋口先生は「毎年ダービーに出すことが目標だ」と仰っていて、何年か前にそれができなくて、ダービー前に「今年のダービーは終わった」って言われていたのが、凄く記憶にあるんですけれど。橋口先生ほどの執念じゃないけれど、やはりダービーには出さなきゃいけないだろというのはありますね。そこで橋口先生みたいに2着を繰り返してゆくうちに、今度は絶対勝たなくちゃいけないということになってくるでしょうし。僕から見たら、橋口先生は大先輩で実績も凄い方ですけれど、ダービーに出すことにあそこまで熱くなっているのは、やっぱり美しいなって。

水:例えば小島茂之厩舎としての、独自の厩舎スタイルなどはありますか。

小:乗り手を中心として、厩舎の従業員のレベルアップは常に考えています。どうしても、厩舎の中で差が出るんですよ。凄く乗れる助手がいたり、くたびれた助手がいたり(笑)。だけれど、ベストを尽くしたいから、下の者には上がってきてもらわないと困るし、上の者にも下を引きあげてもらわないと困るし。僕はスタッフには一見優しそうにみえて、すっごくキツイ事言うんですよ。やっぱり、妥協しない仕事をね。僕が妥協したらみんなも妥協していくだろうから、妥協せずに続けていけばいいと思います。
それでいながら、さっきの話じゃないですけれど、どこで緩い部分をつくるか。成績に影響するような緩い部分はつくってはいけないけれど、そのバランスをうまくとっていきたいですね。

水:小島厩舎のイメージとしては、牝馬が強いとか、ダートの長丁場を得意とする馬が多いということがあるような気がします。

小:確かにダートの長丁場に出す馬は多いですねぇ。でもこれ、いつも言うんですけれど、たまたまそういう馬が集まっているだけで。あとはジックリ乗るから、距離の融通性が出るんですよね。血統的に短いところの馬も、長いところの馬も、基本的には一回ジックリ乗ってあげて、例えばサクラバクシンオーの仔はこういう風に乗ってやろうとか、長いところに適性のある馬はこうしていこうとか。短い距離が得意なバクシンオー産駒を2100mのダートや、2400mで走らせたら、そりゃあ「変わっているね」と言われてもおかしくはないけれど(笑)。ジョッキーや乗り手とかと集まってそんな話をしているうちに「この馬はダートの長いところが面白そうだよね」なんて話になるわけで、たまたまなんですよね。じっくり乗るから長い所も走れそうな馬がたくさん出てくるというだけのことです。
それから牝馬に関して言えば、開業して間が無い厩舎って、そもそも牝馬が多いんですよ。で、上の厩舎にいけばいくほど、牝馬って少ないんですよ。でも、トップの厩舎に牝馬が少ないことは、僕らにとってはチャンスなんです。牡馬だと真ん中より下しか入ってこないかもしれないけれど、牝馬だと上の下くらいのレベルが入ってきたりしますし。牝馬の方が仕上げが難しいし、「ウチは調教が強いから牝馬はいらん。調教に耐えられない」って言われる先生もいますし。でも僕は声をかけて頂いた馬から優先的に入れて行くので、そうすると上位厩舎に牝馬が入りにくい分、優先的に牝馬が多くなるんです。

水:ああ、それは気が付きませんでした。

小:歴史がある厩舎をみていると、最初は牝馬主体でそれが走って、その子供が入ってきて。その仔が牡馬で・・・といった具合に段々と傾向が変わっていく感じですね。逆をいえば、馬主さんの気持ち次第だけれども、ブラックエンブレムの子供が順調だったら入れてもらえるかもしれない。プロヴィナージュだって引退すれば、子供を産むでしょうし、産まれたら一頭くらいは入れてもらえるんじゃないだろうかと思いますから。クィーンスプマンテの仔だってそうですし、そういうところから変わっていくわけですよね。

水:話は変わりますが、今はサンデーサイレンス(以下、SS)の仔はほとんどいなくなってしまいましたけれど、サンデー産駒全盛時、SSの仔は高馬が多いので、評判馬の多くは実績のある大厩舎に入っていました。当時SSの仔が入っていない厩舎には中堅以下、若手が多かった。
しかし時が流れて今は結局、当時SSを任せてもらえなかった世代の厩舎が中核に入ってきているわけですが、つまりはSS産駒がいなくなった今でこそ、当時培ったノウハウが活きて台頭してきている・・・そういった部分が凄くある気がしています。

小:ある上位の厩舎の先生に「昔は外車(外国産馬)かSSが入っていればそれでよかった。いかにSSを集められるかが厩舎運営にとって一番重要だった」という話も聞いた事があります。それが崩れたのは事実で、所詮最後は個々の馬の能力なんですよね。その能力を如何に引き出してあげるか。磨かないと出ない場合もあるし、自然に出てくる場合もあるし、その判断が一番重要なんです。その差が縮まるほど、それぞれの技術や「厩舎力」が必要になってくるわけですよね。それを覚えて勝負できる様になってきたというのはありますよね。

水:なるほど。あの時にSSを任せてもらえなかった状況で苦労して、SSがいない状況で頑張ってきた厩舎がいまは上位に頑張っている。それだけではないですけれども、その要因は凄くあるかなと。

小:みんな、凄く勉強するようになりましたよね。馬の扱いにしても何にしても。以前に比べても色々な情報がありますし、餌のやり方ひとつとってもそう。調教のやり方ひとつとってもそう。日本は歴史がないけれども、勉強は海外よりもしていると思うんです。