水上学が現代の競馬界が抱える様々な問題を、現役競馬関係者をゲストに迎えて徹底討論する、対談シリーズ!第一回のゲストは、自身の声を積極的にブログで公開。早くから「栗東滞在」を取り入れた調整方法でG1トレーナーに登り詰めるなど、新進気鋭の小島茂之調教師を招いて行われた。

水:本日はお忙しい中、お時間を割いていただいてありがとうございます。今日もこの後移動を控えていらっしゃるわけで(※小島先生はこの対談後中山から羽田へ移動、翌日朝から北海道へ)、まさに休まる暇がないと思いますが、普段どのように息抜きされてるんですか?

小:本当に馬が好きなので、結局息抜きも馬で・・・ですね。走らない時はストレスにもなりますけれど、調教に乗るのも楽しいですし。競馬って10回に1回くらいしか勝てないものじゃないですか。でも、その1回がストレス発散になりますね。勝てなくてもこちらが思ったような競馬をしてくれた時とかは嬉しいものです。

水:では、すべて競馬のサイクルの中で消化していく感じですね。
まあ先生の日常の大変さというのは、ファンの皆さんもおなじみのブログ(※公式ブログ「小島茂之厩舎の本音」http://s-kojima-stable.at.webry.info/)でも拝見できるわけですが、このブログは本当に評判を呼んでいます。馬をいかに細心の注意を払って管理されているのか、その具体的な方法などは、先生のブログを読んで初めて知る人も多いと思うのですが、ブログは始めて何年目になりますか?

小:何年目ですかねぇ。結構長いとは思いますが…(※06年12月に開設)。僕も淡々とやっていて、それこそプロヴィナージュの一件(※後に詳述)があったのが2年くらい前ですからね。そのもっと前からやってますよ。

水:これだけお忙しい中で、ブログを開設されようと思われたのはなぜでしょうか。

小:ちゃんと情報が伝わっていないことですね。新聞を通じてコメントが出るじゃないですか。文字数が限られている中で「ニュアンスが違うなぁ」という事もあるし。
例えば時計を意識して追い切りをしても、うまくいかない場合や、意図的にパターンを変えたりした場合などは、紙面には数字しか出ないのでニュアンスが伝わりませんよね。そういう時に「こういう意図があって、こういう調教をした」とか「こういう感じだった」とか、もっと発信した方がいいなぁと思うんですよ。たくさんの人が馬主気分を味わっている、いわゆるクラブ所属の管理馬が増えてきましたし、いろいろな意味で憶測を招くことも多い世界なので、ちゃんと自分で情報を発信しないと駄目だなと。報道で誤解を招くのは嫌だなと。

水:いま憶測というお話がありましたが、競馬マスコミ自体も及び腰というか、マイナスになるような事は書かないんですよね。後で取材拒否になるような事もあるからなんですが・・・。しかしその一方で、スキャンダルのような事には喜んで飛び付いて来るということで、思いっきり両極に振れてしまってるように思います。正しい報道というものが成り立ちにくい土壌というか・・・・。そんな中で先生のような考えをお持ちの方が増えると、ファンも安心して馬券を買えるというのはあります。とはいえ、忙しい調教師の方に、色々とおっ被せるのもどうかとは思いますが(笑)。

小:記者の方にも『ブログであそこまで細かく書かれたら、商売あがったりです』なんて言われたこともありますよ(笑)。水上さんのコラム(※昨年まで「競馬最強の法則」誌で連載していた口アングリー)読んだりして、確かに厳しいことを書くな・・・と感じる時もあります。でも、それ(意見)がなくなったら終わりだと思うんですよ。
報道する側をひと括りで考えると、『こんなことは書かなくても…』とかあるのかもしれません。けれども一方で、報道という大きな観点で考えれば、アリなはずなんです。
例えば、少し話は逸れますけど、昨年は落馬事故が多くて、その写真が掲載されたことによって、抵抗を感じたという騎手のコメントを見ました。ジョッキー側からしたら、馬が故障して、人が落ちている写真を載せるのはいかがなものか?という気持ちもわかる。『報道』という取材する側からすれば、現実にそれが起こったわけだし。事実と違う細工をしたとかならば問題だろうけれども、起こった事実を正確に流しているのなら、しょうがないという気もする。辛いだろうけれど騎手側も受け入れなければならないんじゃないかと思いますよ。

水:戦場の写真ではないけれど、ファンもまた受け入れなければならないと思うんですよね。こういった危険を克服して騎乗している騎手への敬意にも繋がりますからね。

小:例えば、ジョッキーが亡くなったというなら話は別だと思いますし、じゃあ怪我だったら(載せて)いいのかということにもなるけれど、そういう次元の話はさておいて、僕は事故を取り上げることもアリじゃないかと思いますね。嘘は駄目だけれど、いいことも僕らは載せてもらっているわけだから、辛いことも踏まえて、マスコミの人に助けられていると思わないといけないですよね。

水:そういう意味では、いま現在、小島先生とマスコミは良好な関係が築けている・・と。

小:そうですね。時々、間違った報道だったり「違うな」ってコメントもあったりしますけれど、そのことで馬主さんに大きなクレームをつけられた事もなくて。もしそうなっても、僕からちゃんと説明すればいいと思っています。ファンの人達には、ブログで発信していますし。勘違いされるようならば、こっちの表現が足らなかったのかなと思いますからね。

水:現場の関係者がブログを開設されたのは先生が先駆けで、今は騎手や調教師・厩務員の方々にまで広がってきました。色々な方のブログを読むと、それぞれの競馬観も違うことがわかりますし。そこに関してはいい時代になったのかと思いますね。
ところで、JRAとしては内容にチェックを入れたりしているのでしょうか?

小:入っていると思いますよ。講習会みたいなものもありました。写真を使う場合は肖像権なども関わってきますし「注意しないとまずいですよ。インターネットで不特定多数の人がみられる場所に書くと、訴訟などもありますから」と。

水:そういえば、以前もある騎手のブログでトラブルがありましたね。

小:あれは競馬社会では初めての事で、「気をつけなくては」というキッカケにもなりましたから。僕はその時のコメント欄もチラっとみていたから、彼の気持ちもわかるし。でも、うちのプロヴィナージュの時も、普段書き込んでこない人が出てくるわけですよ(笑)。ブログをやる側はそこは覚悟しないと。 今となれば大変だったなぁと思いますし、やる前にも相当考えましたよ。まず続けられるかという事と「色々なところに迷惑がかかる恐れもゼロではないな」とも思ったので。迷惑が掛かった時には、自分の営業というか、厩舎運営に関わってくる可能性がありますからね。そこは覚悟を決めてやろうと思って。
今のところはうまくやれているかなと思いますけれど…。ブログの表現は難しいですよ。どうしてあんなに文章が長くなるかというと、自分の表現力不足を補うためです。できるだけ多くの人が理解してくれるように書くと、長くなってしまいますね。

08年当時、ダート戦のみで勝ち鞍を挙げていたプロヴィナージュ。秋華賞当週の週中でも出否未定という情勢だったが、デキの良さから木曜日に出走へと踏みきった。それにより、母がエアグルーヴという良血からも注目を集めていたポルトフィーノが除外となり、小島茂之厩舎のブログのコメント欄を中心に、ファンから賛否両論の意見が飛び交ったが、管理するブラックエンブレムと、プロヴィナージュがレースで1・3着となり、小島茂之調教師のジャッジが正しかった事を証明する結果となった】

小:一度、競馬会の方に言われたのは、ブラックエンブレムの鼻出血の際、サプリメントを使用したんですが、それを「薬」と表現したら敏感に反応されましたね。「薬と書くと、誤解をする人がいるかもしれない」と言われて、そこは修正したんですよね。厳密に言えば、薬物ではなかったんですけれど。

水:でも、労を厭わずに発信してくれる事は、素晴らしいと思いますね。

小:とはいえ、たくさん馬を使う(レースに出走させる)週は発信するのも大変ですね(笑)。

水:先生は一頭一頭に「前回から、こうゆう対策を施して…」という経緯まで書かれるじゃないですか。ここまで書かなくてもいいんじゃないかというほど、丁寧に書かれていますよね。

小:そこは、「競馬って、こういう風に流れている」という事を知ってもらいたいんですよ。それこそ、私はギャンブルから競馬に入って、この仕事に就いて、馬券を止められるか心配くらい好きだったんですよ(苦笑)。でも、今裏方としてやっている仕事の方が、どんなギャンブルよりも面白いんです。そこで「自分がなぜ競馬の魅力にとりつかれたか知ってもらいたい、競馬がこんなにも面白いというところをわかってもらいたい」と強く思ったわけです。
自分が馬券を買っていた時は、3着までの馬しか見ていませんでした。で、馬好きが高じてクラブの会員になって、馬に出資してみたら「1つのレースに出るまでがこんなにも大変なんだ」と分かったし、たとえ、タイムオーバーになっても自分の馬が可愛いんですよ。またその近親の馬を応援したり、子供を応援したりと広がって、「こんなに面白さが続くものはないな」と痛感しました。だから、それ(レースに出走するまでの経緯)を少しでも分かってもらえれば、ファンの皆さんにも競馬の奥深さが伝わるかなというのはあったので。