関係者の素顔に迫るインタビューを競馬ラボがオリジナルで独占掲載中!

井上泰平調教助手

今回はデニムアンドルビーと同斤量

-:昨年との一番の違いは、京都記念を使ってから遠征するという点ですね。

井:おかげで、気合いも結構乗ってきました。今週ビッシリとやりましたし、来週水曜日(3/19)の最終追い切りは輸送が控えているので、どういう指示が出るかはわかりませんが、態勢は整っていると思います。

-:来週の金曜日(3/21)に出国ですか?

井:そうです。僕が1日早く出国して、向こうでジェンティルを待ちます。

-:向こうで追い切りをかけるというよりも、日本で仕上げてから持っていって、輸送の疲れを癒やした上でレースに臨む感じですね。

-:レースのポイントとして、どの馬をマークしていくかなども難しいですよね。

井:その辺りはジョッキーにお任せですね。

-:当日のコンディションも、本番までのレースにも乗られているでしょうし、そういう面ではプラスですね。

井:それから、斤量も昨年と同じで出られるんです。4歳以上は同じなんです。昨年と条件は同じですね。デニムアンドルビーも同斤量になります。

-:ジャパンカップでは猛追してきましたが、今回は斤量差がなくなりますね。あとは当日の馬場状態や相手、枠順に尽きると思いますが、飛行機での輸送はどの馬にも堪えるものでしょうか。

井:そういう風に考えていたんですが、向こうに行ってからもそれほどダメージはなくて、逆に太ってきたので、最終追い切りも予定よりもう少しやらなくちゃいけないという感じだったんです。そういう心配は今年はマシですね。

-:レース中にはメンコをしていますが、あれを外したらどうなると思われますか?外したレースも見てみたい気がします。

井:もっと引っかかるんじゃないですかね。シンザン記念の時は外していましたね。

-:外国馬として扱われるわけですが、調教の時間枠も決められるんでしょうか?香港だと次々と外国馬が入ってきて、慌ただしい調教になることもありますが。

井:案外こちらのリクエストは通るんです。それほど、時間に縛られることはないですね。結構のんびりしています。



-:重たい馬場を走るときに、他の国の馬の蹄鉄はどうなっているんでしょうか。日本のレギュレーションとは異なる部分もあるんですか?

井:いつもと同じものを使ってます。タペタ(オールウェザー)に関しては特別みたいですけど、芝に関してはそこまで神経質にならなくても、十分走れていますね。

-:タペタはグリップが利きすぎるようですね。

井:ちょっと擦り減ったくらいの蹄鉄が良いと聞いたことがあります。馬場が掘れないので、足跡が走っているみたいに、蹄叉の跡までキレイに残るんですよ。

-:だから、ダートとは丸っきり違うんですね。

井:違いますね。逆に、スピードがすごく出ます。

-:脚元には恐いですね。

井:そうですね。反対手前でコーナーに入ったりすると、下が崩れなくて逃げ場がないので、嫌だなって気持ちにはなります。



-:ジェンティルは、向こうで調教するときは全部芝コースですよね?

井:はい。全部芝コースでします。

-:タペタでするのは怖いですよね。

井:去年は、最初の日だけタペタで乗ったんですけど、今年はもう、去年行って慣れているので。芝コースって1頭ずつしか走らせてくれないんですよ。すごく狭い枠の中を走らなければいけないんです。去年は不安だったので、とりあえずタペタでガス抜きしようって思ったんですけど、今年は最初から芝に行きたいと思います。追い切りの日は外ラチ沿いに移してもらうようリクエストはするんですけど、それ以外はみんなと同じようにやります。

-:そんな速く走るわけじゃないので関係ないですね。

井:物見をするので気持ちは悪いんですけど。僕も去年乗っているんで、慣れというか、行けるだろうという判断ができています。

-:あとは、朝は寒くて日中はすごく暑いという、気温の寒暖差はジェンティルドンナは堪えないですか?

井:向こうで検疫厩舎に入るんですけど、冷暖房完備なので、ほぼ一定の温度で過ごせるんです。

-:至れり尽くせりですね。検疫厩舎にずっといるんですか?

井:そうです。滞在中は検疫厩舎にずっといるんです。すごく広いですし、馬房も日本の1.5倍くらいあります。すごくリラックスできる環境です。

-:広すぎて、逆に馬が戸惑いそうですね。

井:僕らもどこで馬装すればいいのか戸惑うくらい広いです。広すぎて、いつも馬装するポジションをこの馬房でどう取ればいいのかなって感じはあります。



やはり左回りでこその馬

-:薬物問題があった後ですね。向こうの調教師さんも、そういう事実はないって否認されているみたいです。第三者が入れた可能性もあるから、日本の馬もいたずらされないように警備しなければいけないですね。

井:警備はめちゃくちゃ厳しいですよ。ゲート入るときに一回止められて、全員のIDをチェックされてというのが二重くらいにあります。不審者が侵入できるような感じはないと思います。

-:そうなんですね。それなら、楽しみにしていいですね。

井:僕たちは楽しくないんです (笑)。頑張らなければいけないし、結果を出したいので。

-:しかも、京都記念の内容からガラリ一変しなければならないという責任もあると思います。

井:あれはまあ……競馬なので、その結果をちゃんと受け止めて次に繋がるようにやっているんですけど。


「やっぱり左回りの方がいいのかな、とこの間の競馬を見たら思っちゃいますよね」


-:負けたことがドバイに繋がったって後々言えるようになればいいですね。

井:いつも決めるときは決めてくれる馬ですので。本番に強いし、年をとって能力が落ちたということは全然感じないです。ジェンティルを信じて行きたいと思います。

-:得意の左回りですし、ドバイも左回りです。

井:そうですね。やっぱり左回りの方がいいのかな、とこの間の競馬を見たら思っちゃいますよね。

-:オークスのパフォーマンスは凄かったです。3歳の牝馬同士だからよく見えているだけって言う人もいるけど、そうじゃなくて、ジャパンカップにしろ、やっぱり左回りの方がイメージはいいです。馬自身が走りやすそうです。

井:左回りの競馬を多くしているので、どこで加速するかを覚えているのかもしれないですね。

この中間は坂路で自己ベストを更新

-:当たり前のことですけど、牝馬ながら牡馬とばっかり戦っていますね。

井:そうですね。いつも人気していますし。毎回、狙ったレースに出走できるというだけでも馬として凄いと思うんですよね。去年は一回しか勝っていないですけど、2着3着と、一応表彰台乗っているようなものだと思うので、すごくタフな馬だと思います。この馬はすごく結果が求められて、2着でも3着でも叩かれるので、プレッシャーはあります。

-:今年は、ドバイでもちゃんと折り合って、終いの余力十分で戻ってきてくれることを期待します。それを楽しみにしています。

井:前走、前々走と我慢させる競馬をしていて、福永騎手もそんなに引っかからなかったと言っていたし、徐々に解消されているんだと思うんです。



-:でも、京都記念で引っかからなかったのは、やっぱり仕上りの問題ではないですか?

井:それでも、引っかかるには引っかかると思うんですよ。自分の力が持つところまでは。逆に、仕上がっていなければいないほど、気負って引っかかると思うんです。だから、そういう面は解消されてきていると思います。

-:でも、競走馬なので、ジェンティルドンナが全く引っかからなくなったら多分勝てなくなるような気もします。競走馬の本能的な、もっと前に進みたいというすごく大事な部分を持っているだけだと思います。どうにもコントロールが利かないというわけではないですし。

井:そこまで行くと、距離を短縮するしかなくなってきますからね。

-:折り合って直線で弾けるジェンティルを期待しています。

井:そうですね。見たいですね。

-:世界の強豪と戦うのは簡単なことではないですけど、なんとかジェンティルドンナ自身のコンディションを上げて良い状態で出れたらいいですね。去年2着なんですから。しかも、ばっちり折り合って完璧な2着というわけではないと思います。まだ上積みがありそうな気がしますし、2回目の経験を活かしたいですね。

井:そうですね。経験している分、去年よりは不安はちょっと少ないです。


「今週の馬場は時計が速かったですけど、一応自己ベストも出ていますし。そんなに衰えているというのはないと思うし、調子が落ちているとも思いません。むしろ、今回良いんじゃないかなと思っているけど」


-:この馬のわからないところは、本当に調子が悪い馬だったら、体型がガレたりとか、疲れが顔に出たりするんですけど、それを全然見せない部分ですよね。

井:見せないですね。体重も体型も変わらないし。

-:元気そうだな、いつも通りのジェンティルだな、という風にしか見えないです。すごく精神的に強い馬なんだと思います。それだけに、結果を出してほしいですね。

井:そうですね。今週の馬場は時計が速かったですけど、一応自己ベスト(4F50.6)も出ていますし。そんなに衰えているというのはないと思うし、調子が落ちているとも思いません。むしろ、今回良いんじゃないかなと思っているくらいで。

-:ジェンティルドンナクラスの馬に、坂路の時計で一喜一憂してもしょうがないですからね。そりゃ走るだろって(笑)。好調なら好調でホッとします。京都記念の結果で心配しているファンもいると思うので、あえて聞かせていただきました。ドバイでも結果を期待しているので、あと1週間、最終追い切りも撮りに行くので、よろしくお願いいたします。

井:頑張ります。ありがとうございます。

●井上泰平調教助手インタビュー(前半)はコチラ⇒

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●京都記念前・ジェンティルドンナについてのインタビューはコチラ⇒



【井上 泰平】 Taihei Inoue

大阪府豊中市出身。9歳から乗馬を始め、高校時代に国体を優勝。必然の流れにより大学では馬術部に入る。卒業後は美浦分場に2年間勤務。アイルランドの研修などを挟んだ後に競馬学校へと進学し、中村均厩舎からトレセン生活をスタート。その後は開業直後の角居勝彦厩舎で調教主任を務め、大久保龍志厩舎では持ち乗りから攻め専に転身。後の名門厩舎の基盤を築く。
30年以上にわたる馬乗り人生の中で、現在モットーにしていることは「馬との信頼関係を築くこと。分かりあえたかなと思っても、また違うのかなとそれの繰り返し」と。石坂正厩舎の屋台骨を支えるベテラン調教助手。


【高橋 章夫】 Akio Takahashi

1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。

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