大和屋暁氏インタビュー

●須貝尚介調教師との縁、師の相馬眼


-:今は3頭お持ちになられてて、全て須貝先生(須貝尚介調教師)の厩舎に所属。須貝先生と面識が出来る経緯はどんな流れでしたか?

大:社台スタリオンの角田さんという方が、ジャスタウェイを落とした時に紹介してくれました。「誰か調教師で知り合いいる?」と聞かれて、特別、存じあげてはいなかったので、「紹介してください!」と、そうしたら「関東、関西どっちがいい?」と聞いて下さったので「関西がいいです」と、で、その時、僕はまだ三十代の小僧でしたので、「じゃあ、若い人がいいよね?」ということでその場で電話を掛けて下さって。すぐに須貝先生が来てくれて、その場で「よろしくお願いします」と。今となれば、ラッキーな出会いでした。角田先生は僕の恩人です。本当にありがとうございました。

-:JRA通算100勝も史上最速で達成されるなど、これだけすぐに結果を出されている調教師さんですからね。

大:すごくマメに馬を見に行ってくれるし、他の馬を見る時も、行く度に自分の馬の様子も見てくれて。当時は須貝先生に「あの馬(ジャスタウェイ)は良いよ」と言われて、絶対にリップサービスだと思ったんですけれどね(笑)。そうしたら、デビュー戦ですぐに勝ったじゃないですか。“スゲエ、お世辞じゃなかったんだ”とビックリしましたよ。

(続けて)

やっぱり、馬を見ていて動きが良いとわかっていたんでしょうね。マメに連絡を入れてくれて、デビューをする年の1月ぐらいから、「この子は絶対に走るから」と確信が強まったかのように言っていてね。次の年も「オツウは走るから」と言ってくれて、その時は信用していたので、もう疑うことはありませんでしたが(笑)。

-:馬主さんに対して、かなりマメな方なんですね?

大:そうですね。他の調教師の方を知らないけれど、あそこまでマメな方はなかなかいないんじゃないでしょうか。

-:現時点でジャスタウェイの次走は関屋記念と発表されていますが、そう言ったプランというのは、どうやって決められているのですか?

大:大体、須貝先生に“お任せ”という感じです。競馬の素人が偉そうなことを言ったって、しょうがないですよ。先生を信頼してますし、プロにお任せしてるのが一番。でも、去年の日本ダービーの時は「行って下さい」とお願いしました。NHKマイルCから中2週でしたが「行きましょう」と。自分からはそれぐらいですね。あとは須貝先生にお任せしています。

-:もちろん、須貝先生も昔はゴ-ルドシップも2歳の暮れに使ったばかりで、年明けの東京で共同通信杯を選択してくるとか、外野からすると、意外なローテを使って、結果を残されている印象があります。

大:ちゃんと考えられているんですよ。「こうこうだから~、ココを使います」という感じで、ちゃんと言える人ですからね。「何となくココを使います」じゃなくて、そこを使うには、こういう理由があって、勝てる可能性をちゃんと見て、考えてやってくれている感じですね。だから、安心してお任せをしてます。今や、預かってもらえるだけでもラッキーという感じで。

-:セレクトセールでも、ずっと一緒にいられましたよね。先生ともそこまで年齢差もなく、親しい間柄ということで。

大:そうです。47歳ですよね。だから、年齢が近くて、何か親近感があるんじゃないかな。須貝先生にとっても、馬主さん年上の方ばかりだから気楽で良いんじゃないですか。競馬の前の日なんかも会ったりしていますよ。

●ジャスタウェイとの出会いは運


-:ハーツクライ産駒という縛りがあるとは思いますが、馬を選ぶ上で、血統や馬体など、ご自身のポイントは持たれていますか?

大:正直なところ、今までは買えるハーツクライを買ってきただけです。ある意味、強運なのかもしれない。セリで順番があって、それを選んでも、幾らになるかわからないじゃないですか。最初の頃は資金力も何もないから、上から落とせるヤツを落とそうという感じで考えていました。

-:最初は本当にそれだけのことだったんのですか。それでいて、ジャスタウェイを落とされるとは強運としか言いようがありません……。

大:そうそう。手を上げていって、“落とせるか?”という感じですね。今は運だけでやってます。だから“運だけで良いや”と思いたいとは思うんですけれど、それではいけませんから。

選ぶポイントでいえば、社台グループは全体的に(ハーツクライ産駒の)最初の内の1~2年で、短いところを使っている肌にハーツクライを付けているんです。それはちゃんとチェックはしています。だから、ジャスタウェイを競った時は“上がスカイノダン(北九州記念2着)で良いじゃん”という思いはありました。結構、期待馬には兄弟に短いところを走っている馬が多くて意図があるんですよ。ハーツクライは晩成血統と言われてるじゃないですか。それに合わせて、スピードを出したいという意図があるのかなと。想像ですけれど。

-:短いところの馬と共通しているかわからないですけれど、母系がダート血統っぽい方が、比較的走ってる印象があるのかなという感じはしましたね。

大:「これから先、ダートで走るハーツクライの子供が出てくる」と言っている人もいたんです。なぜかはわからないけれど、当初の見方は芝専門みたいな感じじゃないですか。「これからダートで出てくるから、ちゃんとチェックしてみてね」と予言する競馬界の偉い人たちもいたので。

-:じゃあ、今後はダート寄りのハーツクライも狙っていけますね。

大:そうですね。買える範囲内で狙ってみたいと思います。

●やっと手にした馬主ライフ


-:ちなみに勝負服というのはどういう由来でデザインをされたのですか?

大:最初は青っぽい勝負服が良かったんですけど。それで、須貝先生を通して提出したものの、審査が通らなくて、その後に競馬ゲームで10種類ぐらいサンプルを出して、うち幾つかが通って、「何個か通りましたよ。どれにします?」と言われて、最初に言ってくれたのが、今の勝負服。「じゃあ、それで良いです」ということでね。結果、ちょっとカッコ良くないですか?

-:カッコ良いなと思いますねえ。

大:ねえ、良いでしょ。

-:馬主になっても馬券は買われたりするのですか?

大:馬主になったら、本気で買うようなことはなくなりましたね。自分の馬が出る時って、頭がめちゃくちゃになっているので、ずっとお酒を飲んで、リラックスに努めます(笑)。冷静じゃいられないほど緊張するんですよ。初めて馬主になったのに、ジャスタウェイなんか毎回、重賞。それに、今や人気を背負いますからねえ。それでいて、今年は勝ってないですから、ファンの方には本当に申し訳ないです。でも勝負の世界ですから。

-:ジャスタウェイ以外の2頭の予定は決まっていますか?

大:オツウは短期放牧中で、パンデモニウムはノド鳴りです。多分、手術をすると思います。入厩するまでは、すごく良い動きをしてたんだけれど、デビュー戦は11着で、ノド鳴り。牧場の人が「きちんと治すので、待ってて下さい」と言ってくれたので、待ってます。復帰してからでも、走ってくれると良いんだけれど……。

-:こういう騎手を起用していきたい、という意向であったり、注目しているジョッキーはいますか?

大:というのも、福永さん(福永祐一騎手)以外で勝ったことがないんです。

-:「福永騎手」と言わざるを得ないですね。

大:本当にありがたいですよ。誰だかわからないような弱小馬主の馬にちゃんと乗ってくれる訳ですから。

-:僕は毎日王冠を見ると、(柴田)善臣さんにも、ジャスタウェイにもう一度、乗ってみてほしいとも感じました。

大:こればっかりは巡り合わせですから。それでも、毎回、毎回、ちゃんと須貝先生が素晴らしいジョッキーをおさえてくれているのが、有り難い限りです。普通はあり得ないことですよ。大事にしてくれています。

●関屋記念で今年初勝利を!


-:そして、ジャスタウェイが関屋記念(G3)に向かいます。エプソムカップでも僅差の2着ですし、1番人気に支持されそうですね。

大:1番人気でしょうね。何とか結果を出してほしいです。秋のためにね。

-:ココで勝って、しっかりと賞金を加算して天皇賞(秋)に行けたら良いですね。

大:ええ。まず、結果を残すことが大事ですが、ローテーションの最終的な判断は須貝先生の判断もありますからね。ただ、秋はマイルの方に行くか、それとも2000ぐらいを使うか、難しいところはありますね。2人とも、去年の今頃は「天皇賞に行きたい」というのは決まっていたんですけれど。

-:オーナーから見て、天皇賞で結果が出たとして、マイルという選択肢もあるし、JCという選択肢もあると思うのですが、どちらが最適だと思いますか?

大:ねえ、どっちなんですかね。僕としては、どっちでも良いかなという感じです。ただ、ドバイに行きたいんですよ、本当は。

-:ドバイですか。将来的に?

大:すごく遠い話なんですけど。これは昔から口に出して言ってるので、また、(馬主になる時と同じく)有言実行しないとなと。ハーツクライの時にドバイへ行って(ドバイシーマクラシック勝ち)、個人的にも初めて口取りに参加して、楽しい思い出ですからね。

-:それを自分の馬で再現したいということですね?

大:そうです。競馬って、夢があって、楽しいものじゃないですか。そうありたいと思います。

-:そのためにも、まずは天皇賞などのG1タイトルを手にして……と。でも、ジャスタウェイがデビューした時は、ここまで大成すると想像されてましたか?偶然落とした一頭がこれだけの活躍をする。これこそ、馬主さんの夢を実現するような素晴らしいエピソードだと思います。

大:デビュー戦を観たら“スゲエー!”と思いましたね。2戦目も新潟2歳Sで2着になり悔しかったとはいえ、あれで賞金を足せましたからね。これで一応、クラシックに乗ったんじゃないのかなと、安心できた部分はありました。

-:その直後のレースの東スポ杯では、のちのダービー馬のディープブリランテに水を開けられもしましたが、そこからこうやってシッカリと力を付けて、重賞でも主役を担っているわけですからね。

大:これは口が裂けても言いたくなかったですけれど……、晩成血統だというイメージがハーツクライに付いちゃって、“種牡馬としての人気がなくなるんじゃないか”と昔は思ってたのですけれど、今は……。

-:ハーツクライも4歳の夏を越して、馬体がシッカリとしてきていましたし、ジャスタウェイも明らかな成長がありますよね。

大:同じ感じですよね。まだ、これからドンドンと。これから期待したいです。

-:そのためには関屋記念で?

大:そうですね。賞金を足しておかないと出たいレースにも出られなくなっちゃうのでね。

-:それでは、馬主さんという立場から、ファンにメッセージがあれば、お願いします。

大:いつも、スイマセン……。

-:「スイマセン」ですか?何かメッセージは他にありませんか?

大:「頑張ります」ということじゃないですか。毎回、うちの子達が負けて申し訳ないです。こればっかりは勝負ごとなんでアレなんですけど……。いつも勝つつもりでいるので、応援よろしくお願いします。

-:控え目なコメントですが、競馬は一応、3着までに入れば馬券としては全ての負けにはならないので……。

大:まあ、そうですね。でも、単勝を買う人もいますから……。

-:人によると思いますけれどね。

大:単勝を買う方も、多いじゃないですか。それでいて、最近は大体が3番人気以内ですからね。「馬券は自己責任で」。最近の口癖です(笑)。

-:その通りだと思いますね(笑)。

大:知り合いの人たちが応援で買ってくれるんですよ。だから、「馬券は自己責任で」と。でも、2着じゃ、負けは負けなんですよ。

-:何とか今度は1着を獲って?

大:ハイ、欲しいです。

-:わかりました。長時間にわたるインタビューを、ありがとうございました。今年のジャスタウェイはちょっとチグハグしたところもありましたが、関屋記念でスカッとする一着を期待しています。

-:何とか次は“今年1勝目を”と思ってます。応援してください!ありがとうございました。