またまたハナ差、ジュエラーが大接戦を制し桜の女王へ!!

ジュエラー

16年4月10日(日)2回阪神6日目11R 第76回桜花賞(G1)(芝外1600m)

ジュエラー
(牝3、栗東・藤岡厩舎)
父:ヴィクトワールピサ
母:バルドウィナ
母父:Pistolet Bleu

桜花賞の結果・払戻金はコチラ⇒

圧倒的な1番人気のメジャーエンブレムが、いつものスタートと違った。行き脚がつかないのか、好位での競馬となる。外目ながらも、絶好の位置でレースを進めるシンハライト。スタートは悪くなかったが、下げて脚を貯めるジュエラー。直線で馬群をさばくのに少し時間がかかったメジャーエンブレムだが、何とか先頭へと躍り出る。だがその時には外をシンハライトの伸びが鋭く、勢いで完全に負ける。さらにそのシンハライトを上廻る脚でジュエラーが伸びてきた。2頭が並んでゴールへと目指す。最後はどちらが勝ったのか判らないほどの同体でゴール。写真判定に持ち越された。そして女神はM.デムーロに微笑み、桜花賞制覇の悲願を達成した。


朝からすごい人、人、人である。パドックへ向かうだけでも時間がいつも以上である。馬券売り場も列をなす。3強、いや1強だろうと信じてパドックを後にした。それほどにメジャーエンブレムの落ちつきはらった歩き。外々を廻って大観衆にも動じない。過去に何度もこうやって戴冠していった名牝を見てきた。シンハライトも同じ様に、いや廻りを圧倒させる目つきで睨みながら周回していく。この威圧感、もしかして無敗での女王の予感さえもあった。ジュエラーは、やや入れ込みとまでは言わぬものの興奮ぎみ。そこらがどうかと、後で思えば素人判断だった。馬場入りしての返し馬を人、人、人の背中越しに観た。

生演奏のファンファーレがあって場内が最高のボルテージとなり、今年の桜花賞のスタートが切られた。
いつもは真っ先に飛び出して先頭にいるはずのメジャーエンブレムの姿が見えない。赤い帽子のサンデーRの勝負服を探すが見えない。内の馬と重なっていた様だ。思わず廻りがどよめいていた。スピードがあるから先手での馬ではない。力が違い過ぎるから先手を取っていたメジャーエンブレムだとは思っている。その彼女が今回は行けてない。行かないのではなくて、何故かほかの馬の方が速かったようだ。ソルヴェイグアッラサルーテジープルメリアの後で、内ラチにメイショウスイヅキブランボヌールと重なっていた。当然にレッドアヴァンセの姿を探した。隣りのジュエラーと並ぶ様に後ろだが、今日は出は普通だった。

1ハロンまで行かないうちに、メジャーエンブレムも内から前へと行く気配を感じたが、外からカトルラポールが、さらにメイショウバーズが上がってきた時には5番手ぐらいに下がっていた。
2ハロンを過ぎたあたりで、カトルラポールが先頭。メイショウバーズが2番手で、アッラサルーテの前が3頭。そこから14頭ぐらいがひと塊りとなって、少し馬群が切れてレッドアヴァンセ、デンコウアンジュで、ジュエラーがブービー。そして最後方がアドマイヤリード。けっこうな縦長の隊列となっている。
シンハライトが前のグループの真ん中あたりで、すぐ右後ろにアットザシーサイドがいた。前半の3Fが34.8と、まずまずの流れで通過。次の200mの間に最後方のアドマイヤリードも前との差を詰めて、先頭から全ての馬が1馬身内の間隔となった。

がむしゃらに速い流れでもなく、淡々と進む流れ。
最後のカーブへと向けて、各馬が脚をジワーッと使って間合いを詰めていく。馬群の中ながらメジャーエンブレムの手応えも悪くない。その少し後ろの外めのシンハライトもいい感じだ。レッドアヴァンセがだいぶ前へと上がってきていたのが見えていた。まだジュエラーは大きな動きをみせていない。

さあ、4コーナーを廻って全部の馬が見える。ラベンダーヴァレイの内ラチで顔をのぞかせているメジャーエンブレムだ。レッドアヴァンセがいい感じで大外を伸び初めている。内廻りの4コーナーにかかろうかの時、ラベンダーヴァレイとウインファビュラスの間をこじ開けようとメジャーエンブレムが体をねじって入りこむ。そのすぐ外をシンハライトがいい伸びを見せだす。その外へアットザシーサイド、さらにレッドアヴァンセも。ジュエラーはその真後ろだ。
ラスト300を過ぎる。メジャーエンブレムが前へ出たか、出ないかの瞬間だったが、シンハライトの勢い、体が一番前へと出た。それを追うアットザシーサイド。レッドアヴァンセの勢いがなくなる。そしてジュエラーが交わしていく。

メジャーエンブレムが内で、もたれる様な恰好をしている。その間にもシンハライトがどんどん前へと差を広げだす。ジュエラーの脚色が増していく。シンハライトが1馬身出るかの時にジュエラーがMデムーロの右ムチに応えてグイグイと伸びて行く。前の2頭が馬体を並べる。『シンハライト、ジュエラー!シンハライト、ジュエラー!まったく並んでゴールイン』と場内アナウンスが興奮ぎみである。

直近のトライアルであるチューリップ賞。あのレースで勝ったシンハライトは、池添Jの導きでジュエラーをハナ差退けた。ジュエラーを内に閉じ込める様なレースぶりで、それでいてあの同体に近い差だったのをこの目で見た。だから実際には、まともならジュエラーの方が強い競馬をしたのだと、その時の感想で思っていた。

だが時間が経つと、そんな事も忘れていた。その点を踏まえてM.デムーロは外へ廻して差す競馬を選択したのだとも思える。今回のジュエラーは悪くないスタートを切っている。それなのにあの位置に下げてほとんど全ての馬を前に置く競馬を選択したの様だと推測する。M.デムーロの心の中では、おそらく決め手ではどの馬にも負けないぐらいに全幅の信頼を、ジュエラーに置いていたのではなかろうか。現に桜花賞の最後の1ハロンが11.6と、切れ切れの瞬発力を要求される数字である。そこへ届いたジュエラーの凄さ、導いた鞍上の手腕だ。

大きなレース、いわゆるクラシックと言われるレースでは今まで違う事をしてはいけないと、常々言ってきたつもりだ。ルメールJも、あえて最初からそんなレースをするつもりはなかったはずだ。推測で言うのだが、クイーンCからの間隔が、馬自身にそんなロスタイムを生じさせたのかも知れない。
終わったら何とで言えてしまう事を許して欲しい。今回のメジャーエンブレムのあのレースぶりは、誰しもが驚いたと思う。鞍上もしかりだったのではなかろうか。おおよそ描いた絵と違っていたはず。レースは生きている。競馬には絶対はないのだと、またまた教えていただいた。

それにしてもM.デムーロ。ネオユニヴァースヴィクトワールピサと自身で積み上げてきた日本での過去のG1馬との結晶、それらの血が結びあって待望の念願の桜花賞を勝つ。なんて幸せな男であろうか。
着差はハナながら大きなハナ。勝者しか歴史に残らないが、名勝負であったと思える。記憶に残る桜花賞であった。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。